お代は……いりませんよ?
それからクロアはメーティスに言われたことを考えながらも、ミルを探してトルシュの街を見て回っていった。
……ミルさん、この店にもいないか。ここは広い街だし一人で探し出すのは無理があるな。
他に探す方法といえば……やはり占い師か。
またあの人を訪ねてみるか。俺とミルさんのことを知っているし……。
クロアはそれから占いの城を訪ねた。
◇
クロアが神官の権力でセレネを呼ぶと、セレネはすぐに応対に出て来てくれた。
「こんにちは、白の神官クロア様。今日は一体何のご用件で?」
「セレネさん、早速なんですけどミルさんは今日ここに来ていませんか?」
「……今日はお見えになってないと思いますけど……何かあったんですか?
最近はクロア様の護衛をしていると聞いていましたが」
「いや……そういうわけではないですけど……。
そう言えばあの時の能力をまた使ってもらうことは可能ですか?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、早速お願いします」
セレネはミルの運命を変更するように、赤☆改認の能力を使った。
◇
「……どうやらあの時と同じようですね。私の力では運命が変えられなかったようです」
「……何か別の力が働いているってことか」
今ならわかる気がする。
運命を変更するのにも、黒い炎の影響が働いているということか。
だとすれば他の人にも……?
「……お役に立てなくてすいません。
でも夜にはさすがに家に戻っていると思いますよ。
あの性格ですからね、宿に泊まるなんてことはないと思います」
「……俺もそう思いますよ」
◇
◇
そしてその日の夕方、クロアはミルの家を訪ねた。
家の前ではミルが誰かを待つように静かに佇んでいた。
「……ここにいましたか」
「……」
「俺の護衛が急にいなくなったら駄目じゃないですか。
それに今日の給料も貰わないつもりなんですか?」
「それは……」
「いや。あれもこれも仕組んでいたんですね?俺の情報を得るために」
「そんなことは……」
「この護衛になることさえも。もうその表情に全てが出ていますよ」
ミルは俯きながら、クロアの目を見れずに話していた。
「……私は上からの命令を聞いていただけなんです」
「本当に?スパイみたいなことやっていたんじゃないんですか?」
「それは……そうですけど、それは仕方なく」
確かにミルさんは大神官の家系というだけで、理不尽な目に合っているだけかもしれないが。
「……さすがに嘘は言ってなさそうですね」
やっぱ組織も組織だけど、協会も協会だな。
「……こんな私を軽蔑しますか?」
「さあ……?最近こんなことが多いので何とも言えませんね」
「……それで私に何か話があるんですか?
あんなことをしてしまったので……。
わかってるんですよね?もうこの関係は終わりでも……」
「そうですね……。でもまだ俺は護衛としての契約は終わってないつもりなので」
◇
二人は家に入り、向かい合って話をしていた。
「……とりあえず、ミアちゃん達がどこにいるかわかりましたよ。
いや、もしかして知ってましたか?」
「……知らないですよ。私は上からの命令を聞いているだけなので」
「そうですか。それでミアちゃんもスパイみたいなことしてるんですよね?」
「あの子は何も知りませんよ……」
「本当かなあ?」
「本当です。私だって自分の得た情報を少し流していただけで……。
だから自分の能力が何故消えたかも、本当に何もわからないですし……」
「……じゃあメーティスさんとの会話中、なんで逃げたんですか?
事実を正直に話せばよかったのでは?」
「言えないんですよ。聞いたら最後言わざるを得ないでしょう?
あの時はああするしかなかったんです……」
「で、俺なら大丈夫と?」
「少なくともあの方よりは……ですね」
◇
「今三人は蛇国にいるようです。もうすぐこちらに来るらしいですけど。
しかしよくよく考えてみると……護衛はもう解消ですかね。
俺の情報を流されたら困ることもあるので」
「やっぱりそうですよね」
「少しは……止めたりとかは、しないんですか?」
「ええ。わかってしまっては仕方のないことです。これも運命だったのでしょう」
「らしくないですね……給料がどうのこうのは言わないんですか?」
「そんなもの、もう……いりませんよ」
「え?」
「……それは都合の良い設定なんです」
「そうですか……」
あれがすべて演技だったとは。
もうこうなるとどこまでが嘘で、どこまでが本当かわからないな。
心が読める能力でもなければ、人の真意などわかるはずもないか。
「……そういえばミルさんの能力のことなんですけど」
「はい……?」
「メーティスさんに頼まれたんで俺の能力で治します、けどね。
このことも……協会に情報を流すんですか?」
「それは……」
「なんかわかってきたんですけど、俺に能力を戻させて良いというメーティスさん。
敵対する協会なのに……。情にでも訴えてきてるんですかね?
俺が能力を戻せば、情報を流さないとでも思ったんでしょうか?」
「つまりメーティス様が組織の一員という情報を……。
私の能力を戻すことで口止めすると?」
「まあそういうことなんですかね?直接は言われなかったですけど。
そうでなければ組織が、わざわざミルさんの能力を戻す必要性はないでしょ?
でも結局はミルさん次第ですけどね。……では、やりますね」
クロアは白☆チェンジでミルの黒い炎の影響を解除した。
◇
「……どうやら無事に能力が使えるようになったみたいです。
……ありがとうございます。何だか温かい感じが致しました。
これでまた占い師として活動できます」
やはりメーティスさんのあの話は本当だったようだな。
白☆チェンジは黒☆黒い炎の対の能力……か。
「じゃあ俺は……そろそろ行きますね。……一応これまでについてのお礼は言っておきます」
「…………はい」
これで良かったのだろうか……。
確かに俺の情報をこれ以上協会に流されたら困るが、俺も向こうから情報を得たわけだし。
「あの……せめてもう一日泊っていきませんか?
もう夜も更けてきますし。お代は……いりませんよ?」
「……そう、ですね」