Money is power
ところで情報屋はどこにあるんだろう?
占いの館みたいな建物も、この街にもきっとあるはずだ。
とりあえずこの辺の地図が欲しいな……。どこかで買うか。
「えーっと……」
クロアは周りを見渡した。するとショップの大きな看板が目に留まった。
あ、あんなところに占いのアイテムショップがあるんじゃないか。まずはあそこに寄ってみるか。
◇
クロアは店に入るや否や店員に尋ねた。
「あの、この辺の地図と……。人の居場所がわかるようなアイテムはありますか?」
「……ああ、地図ならここに。
あとは……あれ、あの水晶玉が無いな……。さっきの人ので売り切れだよ……」
「そんな……」
「……でもあんた、占い師でもないのにこれを扱えるのかい?冷やかしなら帰った帰った」
あ、そういえば俺の神官の服はどこいったっけ?
流れでそのまま普通の青い服のままでここまで来てしまった。
借りていた神官の服はロルドさんの家だし、もともと着ていた俺の神官の服はどうなったんだ?
あれが無いと神官の権力が使えないんじゃ……?
あ、そういやこのバッジを見せれば良かったんだ。
「あの、これが目に入りませんでしたか?」
クロアは輝く白いバッジを店員に見せた。
「これは……!神官様のバッジ……。
まことにすいませんでした。……今日はお忍びで?」
「それよりも、人の居場所がわかるアイテムは無いのか?」
こうなったら、手のひら返すよね?
「先ほど買っていった占い師に言えば、まだ何とかなるかもしれません。
あのアイテムは神官様に使って貰うべきかと……」
「うむ……」
じゃあこの権力を使って譲ってもらいますか。
「たしかこのあたりに住んでいる……。真面目そうな……。
……あ、思い出した。占い師のミル・ステイシーさんですよ。
たしかここから北のほうに家があったと思います。そちらにすぐに向かえばきっと出会えることでしょう。
黒い長髪に紫色のローブの方です」
「ほう、それではそこに行くことにしよう……」
これは良いタイミングだったのでは?
◇
クロアは店を出て、北の方向に歩きながら周りを隈なく探した。
そして黒い長髪に紫色のローブ姿のミルを見つけた。
「やっと見つけましたよ」
「…………」
「ミルさん……?」
「ああ、クロアさん……ですか?何故、こんなところに……?」
「ミルさん……?何だか前と雰囲気が変わりましたね?一体どうしたんですか?」
ミルは以前の面影はなく、どんよりとした雰囲気を醸し出していた。
「私の能力が……無くなったのです。生命線であったのに」
「どういうことですか?」
「私にもわからないのですが、急に使えなくなったのです。
……これではお金を稼ぐことができません」
「それは……大変ですね」
表情が明らかに暗いし、なんだか衰弱しているようだ。
あんなにお金に執着していたミルさんが、お金を手に入れられなくなる。
それでこんなことに?
「この、さっき店で買ってきたアイテム。
……これを使うことしか、道はもう残されていないのです」
元気の無い声でミルは言った。
「まずは状況を詳しく教えてくださいよ。俺も協力しますから」
「……妹を探しているんです。あれからもう何日も帰ってこなくて。
確かクロアさんと出かけたはずだったのでは?」
「それが……」
クロアはミアが行方不明になっていることを話した。
◇
「そうだったのですか?あの時計塔の大爆発の事件の時から……。
でももうあれから日数が経っています。元気にしているか、心配なんです」
「だから、そのアイテムを俺も買おうと思っていて……。
みんなの居場所を知ろうと」
「じゃあ、このアイテムを使ってもらえますか?
今の私では使うことができないかもしれないので」
「はい、じゃあやってみましょうか……」
クロアはミルから水晶玉のアイテムを受け取った。
「えーっと……」
「このアイテムの使い方を教えましょうか?」
「お願いできます?」
◇
クロアは水晶玉のアイテムを使用した。
「……この水晶玉に相手の居場所が映るんですよね?
……一向にミアちゃんのいる場所が見えてきませんね。何故でしょうか?
黒い靄がかかっています。……他の人も試してみますか?」
「……もうだめかもしれません。能力は無くなった。妹もどこかに消えてしまった。
普通に占うことさえ最近は身が入らなくて。何よりお金が手に入らないんです」
「そんな悲観的にならないでください」
一体どういうことなんだろう。運勢が急に悪くなったということだろうか。
◇
「……どうやら俺とあの時別れたあの四人は、
黒い霧がかかってしまって居場所を見ることができませんね」
いったい何故なんだろうか?これ不良品か?
「……どうか助けてください。クロアさん」
「そりゃあ、助けてあげたいですけど、どうすれば……」
「まずお金をですね……」
「……そうだ、これから暇ですか?」
ミルの話を遮るようにクロアは言った。
「……?」
「一緒に情報屋に行きませんか?まずはその場所を俺に教えてほしいんですけど」
「情報屋に妹の居場所を聞くのですね?」
「そういうことです」
「それでしたら、私が案内しましょう」
◇
情報屋はすぐ近くにあったので、クロア達は難なく辿り着くことができた。
「……情報屋はここですね。
とりあえずミアちゃんの居場所だけでもわかるといいんですけど」
「……どうか、その権力をうまく使って聞いてきてください。お願いします」
「はあ……」
……権力ねえ。結局この世界も金と権力なのか?
いや、それを握っているのが運勢というものだったな……。
◇
クロアはそれから必死に情報屋に聞いたのだが、有益な情報は一つも得られなかった。
「どうやら情報がないようですね。おまけに一緒にいた他の四人の情報も……。
まるで誰かに隠されているかのように」
「そんな……」
「……仕方がないですから、生活費ぐらいは貸してあげましょうか?」
「本当ですか?」
ミルは急に明るくなった声で話した。
「でも何で能力が突然使えなくなってしまったんでしょうね?
それについても情報が全くなかった」
前にもこんなことがあった気がするけど。……あれはビアさんだったっけ。
「何でこんなにも情報が無いんでしょう……。思い当たる節はありますか?」
「いや、無いわけではないんですけどね」
これは裏で組織が口止めをしているな……。
さすがに俺が組織に関わっていることを言ったら、厄介なことになりそうだから……。
今はやめておくか。
「こんな時、ミアに頼めば能力で何かわかったかもしれませんが」
「ミアちゃん、本当にどこに行っちゃったんでしょうね……」
「……」
「そう言えば、俺は至急占い力を上げなければいけないんですよ。
どこかこの辺に良い施設とかありませんか?」
「……神官なのに、まだ力が必要なのですか?近くに占いの城はありますけど」
「そんな場所が?」
ついに占いの施設は、城に昇格したのか?
「はい、割と有名な建物ですが。ここからそう遠くないですよ。
連れていきましょうか?」
「じゃあ、お願いします」
◇
クロアとミルは占いの城に向かって、歩いていた。
「……あの、ちょっと聞いてもいいですか?お金にこだわる理由を」
「わからないですか?ミアから何も聞いていないのですか?」
「ミアちゃんから……。そう言えば聞いたような……?
確か貧乏な家で運勢も悪かったけど、エルクさんに会ってから事態は好転していったと……」
「その時まで……。そういう生活をしていたからですよ」
「なるほど……」
つまり昔の貧乏性がずっと残っているということか?
それだけで人は、こんなにもお金に執着するのだろうか?
◇
クロアの頭にはあることが思い浮かんでいた。
「俺、今何だか良いことを思いついたんですけど」
「……何ですか?」
「ミルさん……。俺の護衛になりませんか?」
「え?」
「一時的でいいんです。ミルさんからは学べることがあると思うんですよ。
この国のことも俺はまだ全然知らない。だから教えてほしい。
なので、俺の護衛になってくれませんか?もちろん給料は弾みますよ」
「……こんな私でもお役に立てるなら」
「じゃあ……」
「ところで給料は一時間あたりおいくらですか?」