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変わる予感と赤占い師


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 町ではその日、億万長者が生まれた。

 その運を勝ち取ったトム・ベイノンは、その喜びを声に出せずにはいられなかった。


「当たった、当たったぞーーーー!」


 トムの大きな体から大きな声が木霊した。その声は町中に轟いた。


「今日の俺の運勢はスーパーラッキードリーム!そして今日は大安!

そして言われた通りあのお店で買った!神官様が言ったとおりだ!

これで人生勝ち組だあ、うおああああああああ!」


 雄たけびのようなその声は、町に瞬く間に飛散した。

 近くにいた人々はみな、何事かとその大きな男に注目した。


「おい、うるさいぞ、そこのでかいの」


 少し怖そうな男が眼を付けた。


「すいません」


 だがトムは、にかっと笑う。


「謝りながら笑ってんじゃねえぞ?こっちは運勢最悪でイラついてんだからな」


 怒りを露にしながら、今にも殴り掛かりそうな勢いで男は言った。


「すいません、気持ちが高ぶってしまって」


 トムはその体に似合わない、小さな頭を下げた。


「どうやら何か当たったらしいじゃねえか?ああん?」


 トムは何かを見つけ、急に強気な態度で話す。

「ああ、そうはですけどそれが何か?」


「こいつめっ……」


「占い師さんを呼びますよ?」


「はあ、何言ってんだ?このあたりに占い師なんて……」


 コツコツと小走りでこちらに駆けてくる音がした。


「……私のことでしょうか」


「げっ」


「あー、やっと来てくれましたね。お待ちしておりました、占い師様」


「ちっ……今日のところは見逃してやるか」


 占い師が来ると、注目していた民衆は次第に解散していった。



 興奮していたのか汗が浸み出た額をタオルでぬぐいながら、トムは話す。


「先ほど買いましたクジが……見事当たりました」


「まあ、やりましたね」

 見事な営業スマイルを作る占い師。


「つきましては、お約束のお金を渡しますので、また新たな運命をお教えください」


 トムは重みのある封筒を、差し出した。


「ありがとうございます。では早速あちらで占いましょうね」


「あとはくれぐれもシークスフィア協会によろしく言っといてください。

運勢が落ちたらこのお金はパーですからね。それだけは避けたいので……」


「そうですね。協会への寄付の額は自由ですが、その気持ちはきっと届くことでしょう」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ロルドさんとの話し合いから、数週間が経った。


 青い人たちの影響もあってか、俺は気付けば風水の本を買っていた。

 新しいことも実践している。運勢は少しずつ良くなってきている気がしていた。

 神官様は一向に見つからないが。


 やはりこの世界では、占いの力が大きな影響力を持つようだ。



「今日のあなたの運勢は……」

 

 はあ……。


 またか……。


「カオスバリケードフレイムホールです」


「えっ!」


 この世界にきて初めて運勢が変わった……だと?

 風水はやはり効果があったということか?


 しかしフレイムってどんな意味だ?

 マグマが消えたってことは、状況は変わり始めたということか?

 いったい何が起こるっていうんです……?



 甲高い女性の声が町中に響く。


「占い師さんが来ましたわああ」


 なんだこりゃ。

 人々は歓喜の声を上げ、町中は熱気に包まれていた。

 まるで祭りのようだな……。


「占い師さんが来ましたわあ、ほらあなたもどうぞ」


 派手な服装のお姉さんはニコニコしながらチラシを配っていた。

 俺も例にもれず、チラシを受け取った。


「なになに……この町にも赤占い師がやってきた。

生年月日だけであなたの運命をズバリ当てます……?」


 ふーん、この手の奴は元の世界だと怪しいが……。

 ここじゃそれが本当になるからなあ。行ってみるしかないか。


 そういや最近この辺りに続々と占い師が集まっていている感じだな。

 ……といっても俺は青い人以外にあってないけど。


 確か占いってもっと他に種類があったんだよな。

 俺は占いなんかこれっぽっちも興味なかったから、今この世界で少しづつ学んでいるわけだけど。

 色は四種類あって、青については十分わかってるんだけどな。


「あなたも占ってもらいませんか?」


 派手な服装のお姉さんは、ニコニコしながらチラシを配り続けていた。



「……ここがチラシに載っていた場所か」


 この建物はなんだ?占いの塔っていうんだっけ?

 白く聳え立つ豪華で立派な塔。まるでお城みたいだな。

 ここまでお金をかけるってことは、それだけ儲けているのか。


 何だか不気味だけど……ここまで来たら意を決して入ってみるしかないか。



 建物の中はこれでもかというほどに装飾が施されていた。

 やっぱりここもか……。目がチカチカするな。


 ……おや?誰かの話し声がするな。

 クロアは身を潜めて声のするほうへ近づき、会話を聞いた。

 すらりとした男性と、占い師らしき人物が話をしていた。


「……ちゃんとプレゼントを渡すことはできましたか?」


「はい……。効果はばっちりでした」

 にっこりとする、すらりとした男性。


「ちゃんと彼女には喜んでもらえましたか?」


「それはもうすごい効果で……。周りで拍手が沸いてくるぐらいには」


「それは良かったですね!」


「これで彼女の機嫌も直りました。

本当に、アドバイスありがとうございました!ミル様!」

 すらりとした男性は満面の笑みを浮かべた。


 ……あの占い師の胸に輝くのは、赤いバッジ!

 なるほど、赤占い師は恋のキューピッドということか。



 赤占い師とは初対面だし、色々聞ける良いチャンスだ。

 神官様の事も聞けるかも知れないな。


「……こんにちは」


「あら?あなたは初めて見る顔ですね」

 そう言われると、クロアは顔を見つめられる。


 いつものことだ。人相を見ているんだろう。

 女性にまじまじと顔を見られることは、まだ慣れないが。


 長い黒髪に紫色のローブを羽織っている。いかにも占い師という風貌。

 これなんだよ、俺が想像してた占い師さんは。青い人たちとはえらい違いだ。


「どうかされましたか?」


「いや……。そういや占い師さんは正式な占い師ですよね?」


「そうですよ。これはちゃんとしたシークスフィア協会の正式なバッジです」


 そういうと占い師は、自分の胸についている赤く輝くバッジを指さした。


「ああ、すみません。申し遅れましたね。赤占い師のミル・ステイシーです」


「……クロアです」


 二人は握手をして軽く会釈した。

 ……ずいぶんお堅い感じだな。占い師って色によって性格出るのかな。



「赤占い師ってどんなことが得意なんですか?」


「まあ、そんなことも知らないのですか?」

 ミルは少し驚いた顔を見せた。


「すみません、蛇国出身なものでして」

 最近俺がよく使う、困った時の常套句だ。


「やっぱり……蛇国出身なのですね。それなら知らないかもしれないですね」

 ミルは淡々と言葉を紡いでいった。


「赤占い師は命術を得意としていて、生年月日などをもとに運命、宿命、相性などを占います。

生まれた時にすべてが決まる。予め定まった予定は変わることはないのです」


「なるほど」

 つまるところ誕生日占いだな?それなら俺も知ってる。


「じゃあ早速、俺のことも占えますか?」


「もちろん良いですよ、お金があるなら」

 ミルは笑顔を見せながら言った。


「え、運勢が良くなったら、払うんですよね?」


「ああ、それは青占い師さんのところですね。

私たち赤占い師は料金先払いですよ」


 おっと、これは話が違うんじゃないかな?リンさん。


「何故かって顔をされていますね?結果がすぐわかるからですよ。

きっと的確なアドバイスをしてさしあげますよ」


 ぐぬぬ。


「じゃあ、例えば探し人がどこにいるかとか、わかったりしますか?」


「そうですね、どこにいるかがわかる、というよりも……。

いつどこで出会える運命か、ということならわかると思いますよ」


「本当ですか?」


「はい、嘘は一切ございません」


 そうなのか。なんだが真面目過ぎて逆に怖いな……。

 あんなに気さくだった青占い師に比べると……。


「じゃあお金を持ってきたらすぐわかりますか?」


「それはもちろん」

 ミルは営業スマイルをした。


「あの……それってどのくらいかかるんですか?」

 気を使って、クロアは小さな声で言った。


「このぐらいです」

 ミルも同じく小さな声で金額を囁いた。


「……うそ」


 ありえない金額。想定していた数の10倍以上の値段だった。

 そんなお金、今はないな……。


「お金、無いんですか?」


「今は……。そのお金はちょっと無いですね、でも……」


 クロアがそういった途端、ミルの表情が曇った。


「じゃあ……さようなら、きっとお金を貯めてまたここに来てくださいね」


 クロアが話そうとするのを遮るように、ミルは淡々と話した。

 ミルの最後の営業スマイルは、少し蔑んだ顔をしていた。


「……」

 交渉する余地もくれなかった。

 赤い人は恋のキューピッド改め、真面目な守銭奴っと……。


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