秘密を知っちゃったのに、今まで通りでいられるのかな
「……さっき、私に何を願ったの?」
「あ、わかりました?」
「余計なことしないで」
「すいません」
良い案だと思ったんだけど、ガードの能力が発動したのか?
「ガードの能力はね、あなただけが使える能力じゃないの。
上級の占い師なら皆持っている可能性がある。覚えておきなさい」
……まさか俺の思考まで読めるんじゃないよな?
◇
「……あの、そういえばその格好で外で行動していたら怪しまれないんですか?」
「そりゃあ着替えるわよ、目立たずも私が誰だかわからないような格好にね」
「でも、さすがに国境を越える時には怪しまれませんか?」
「組織の力を甘く見ているの?そんなもの裏からお金を回せばすぐよ」
「……そうですか。組織はそんなにも力を持っていたのですか?」
「そうよ?表の世界の人間には想像し難いだろうけど……。
いまや裏の世界は確実に組織が握っている。それこそ協会と一対一ぐらいの力の差よ」
「それは初耳でした。……組織にそこまでの勢力があったとは。
なんだか思っていたより、組織のスケールが大きくてびっくりしました」
「だからね、組織を頼りなさい?大抵の事は何とかなるから。
でもね、時と場合によっては神官の力も必要かもしれない。
たとえ敵でも……。表の力もうまく使ってこそなのよ?」
「なるほど」
「じゃあ、もたもたしていないで早く行動して」
「……はい?」
「着替えるから別の部屋で待っていて。絶対に覗いちゃだめよ?」
「あっ、はい」
そう言われると見たくなるな。
……ボスの素顔が。やっぱりビアさんに似ているのかなあ?
「……間違えたわ、もう出かける準備はできているのでしょう?外で待っていて」
「はぁ……」
◇
家の外で待っていたクロアは、一人考えていた。
確かにあんな話を聞いてしまった手前、じゃあさよなら、とは言えなくなってくるな。
このまま行動を共にしてもっと事情を知ったりしたら、なかなか帰れなくなるかも。
運命は流れに乗ったら中々変えられないとは、こういうことか。
数分後、仮面の人物は先ほどとは違う仮面、違う洋服を身に着けて外に出てきた。
「待たせたわね、じゃあ行くわよ。近くに私専用の馬車を待たせてあるの」
「何だか、あんまり変わっていませんね?さっきよりも派手にはなった感じですけど」
「仮面を外すのは……やめたわ。だってあなたに私が認識されるのはまだ怖いもの」
「そうですか……」
どうやら俺はまだ警戒されているらしい。
◇
「……それにしても豪華な馬車ですね、中も広いし」
「ここに入っていれば、誰にも怪しまれることはないわ」
「外から遮断されてますもんね」
「すぐに着くと思うけれど……。少しだけこれから行く明国のことを教えておきましょうか?」
「じゃあ、お願いします」
クロアはそれから馬車の中で、仮面の人物の話を聞いた。
明国には占い師がとても多くいて、神官もこの世界で一番多くいること。
白の神官が多くいて、占い師の中でも階級制度があること。
特に神官の順位による影響力は凄まじく、トップ3の神官は神のように崇められていること。
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「……ねえ、昨日のこと覚えてる?」
「はい……。いまだに夢かと思っています」
「私があの能力を使わなかったら、きっと気付かれてた」
「そう……ですね」
「これからどうする?」
「……」
「でも私はアイさんが悪者とは思えない」
「そうですよね。アイ先輩は……。きっと何か事情があったんですよ。
だから、今まで通り接しましょう。何もなかったということで。
そのほうがお互いのためにも良いと思います」
「でも私たち……。秘密を知っちゃったのに、今まで通りでいられるのかな」
「それは…………。
結局会えなかったので、あの事も聞けませんでしたね」
「……あの二人はどういう関係で、何故あんなものがあの場所にあったのか。
これは調査する必要があるかもしれない」
「やっぱり、神官様に一言言っておいた方が良いんじゃないですかね?」
「エミールは真面目過ぎるよ。それじゃあ事の真相はわからないよ?
自分の手で探さなきゃ」
「……それなら良い考えがあります。僕の知り合いにシーフの方がいるんです。
アイ先輩の調査を依頼しましょう」
「それは良いかもね、でも私たちも調査に参加しなきゃだめだよ?
人に頼ってばかりじゃ」
「やっぱりレナーテちゃん……。あの時から何かが変わってますね」
エミールは小さな声で呟いた。
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