青いお兄さんと
リンさんと別れて数日。
ああは言ったものの、俺なりにできるだけの風水を生活に取り入れてみた。
さすがにメイクはしなかったが……。
だがそれでも俺の運勢は相も変わらず、悪い運勢のままだった。
「ほら、やっぱり良くならなかった」
果たしてリンさんと一緒に生活していれば、
今頃運勢は少しでも良くなっていたのだろうか……。
でも嫌々やるのも違う気がするんだよな……。
◇
それと同時に神官様探しをしているが、中々情報は得られない。
やはり占い師より、格が上の神官様に頼み込むしかない。
それに何故かわからないけど……。
もしかしたらあの少女なら、悪い運勢をすぐにでも直してくれるんじゃないか。
……という思いが日に日に増してきている。
職業協会で聞いたときは20年と聞いたけれども……。
◇
「確か前に見た時はこの辺りにいたんだけどな……」
前に来た路地裏。たしかここで喧嘩したんだっけ?
それで疲れ果てた時に、あの少女が……。
あの時の光景を思い出し目を閉じると、神々しい白い衣装が瞼の裏に浮かんだ。
一瞬の出来事だったはずだけど、結構記憶に残っている。
「ここに……いたんだよな……」
路地裏はこの辺りでは薄暗く、元の世界を思い出して気分が落ち着く。
「ここは落ち着くな。もう少し……この辺りを見て回るか」
◇
「ここにもいないな……」
クロアはつい思ったことを口に出していた。
「誰か人をお探しかい?若そうなのに頑張るねえ」
「ん……?」
このパターンは……?どっかで見たな?
「そうなんです、探している人が見つからなくて……」
「そうかい、どれどれお兄さんが少し見てあげよう……」
「えっ……」
近づいて来たのは、やっぱり……全身ブルーのお兄さんだ!
「どれどれ……」
正面から顔をまじまじと見られる。その顔はばっちりメイクされていた。
「人の顔をじっと見て……人相を見てるんですね?」
「君、わかってるねえ……その通りさ」
青いお兄さんは少し驚いた様子で相槌した。
「……じゃあ次は手ですね?」
クロアはさっと手を出した。
「なんでわかるんだい?あ、さてはこれを見たな?」
その胸には青いバッジが輝いていた。
「まあ、それもありますね」
……正式な占い師って、まさかこんなのばっかなのか?
「ふむふむ……なるほど、君は……なかなか複雑な運勢だね?」
青いお兄さんは神妙な面持ちで答えた。
「……ですよね」
例の言葉はないんですね……?
◇
「……って今はそれよりも人を探しているんです」
「誰を探しているんだい?」
「神官ビア・チェレーチェ様です」
「ああビア様ね。……ってあのビア様か」
「はい」
「あの人は本当にすごいお方だからね。伝説になってる話もいくつもあるんだよ。
詳しく聞きたいかい?」
「ほとんど知らないんで、お願いします」
「では立ち話もなんだから、ちょっと場所を変えようか」
「はい、でもできれば手短に……」
「わかった、わかった」
そう言われると、クロア達は近くの喫茶店に向かった。
◇
店内は相変わらず派手な装飾が目に付く、落ち着かない場所だった。
それでも最近は少し慣れてきていた。俺も変わってきたのかもしれない。
「ふう、落ち着いた。少年……名前は?」
「えーっと……クロアです」
「そうかい。俺はロルドだ、よろしくな」
そう言われてがっちり握手され、顔をまじまじと見られた。
「また見るんですか?」
「いや、ごめんな、青占い師の癖だよ」
「はぁ……」
◇
二人はコーヒーを飲みながら、話し合っていた。
「……ビア様のことだったよな」
「はい」
「シークスフィアを首席で卒業。
卒業後は占い師になるも、すぐにその実力を認められて神官に昇格。
今じゃ神官の中でもトップ3の実力を持っているって話だ」
「なるほど、すごい力を持っているんですね」
「そりゃあそうさ、一日で貧乏人を億万長者にしたって事もあるって話だよ」
「それはすごいですね」
これは期待できそうだな。
「そして今はこの功国を拠点に幅広く活動しておられるんだ。
君は見かけたことがあるかい?」
「えーっと……一度だけ」
「そうかい、それは運がいいね。見た目は本当に可愛い少女なんだよ」
「はあ」
確かにそうだったような気がするな……。
「でも、本人の前で言ってはいけないよ、失礼だから」
「……なんかそんな感じですよね、オーラがあるというか」
「そうだね、ビア様は白く光り輝いていただろう?」
「すごい衣装でしたね」
今でも鮮明に思い出せるほど、存在感を放っていたんだよな。
「神官様はみな特注の衣装を着ている。一流の青占い師が作るんだよ。
一般人は中々出会う機会がないから知らないだろうがね」
「なるほど」
「しかし、君はもう少し風水に気を使ったほうがいいね」
「……これでも自分では頑張ってるほうなんですがね」
「そうだったのか、まあ嫌々するのもあれだけどな」
「そうですよね」
おっ、意外と理解ある占い師だな。
「おっと、もうコーヒーが無いな……。だいぶ長くなってしまったようだな」
「いえ、とても興味深い話でした」
いや結構コーヒー飲むの早いよ?青い人。
◇
「それで、今ビア様がどこにいるかが知りたいんだったよな?」
「知ってるんですか?」
「ああ。だが、やはりただで教えるわけにはいかない」
「……お金ですか?」
ロルドは顔の前で手を組み、強い口調で答えた。
「いや違う、コイントスで決めようじゃないか。
蛇国がギャンブルで有名なのは知っているよな?」
「は、はい……」
出たよ、蛇の国。もちろん初耳です。
ロルドはおもむろにポケットからコインを取り出した。
「今持っているのがこれしかなくてな。この縁起の良い白蛇のコインを使って行おう。
表には白蛇、裏にはシークスフィア協会のマークが刻まれている。
クロア君がビア様に合うべきならば、コインが導いてくれるだろう」
「はい」
当てられるか……?
「それじゃあいくぞ」
そういうとロルドはピンと勢いよくコインを弾き、落ちてきた白蛇を手中に収めた。
「さあ……?どっちだ……?」
和やかだった雰囲気が、コインをはじいた直後、一転して緊張の雰囲気に変わった。
コインはまったく見えなかった。
……だがこれは見るものじゃない。俺の運を試しているんだ。ここは直感を信じよう。
「……裏……ですかね……?」
一瞬の静寂がその場を包んだ。
「本当にいいのかいクロア君。今ならまだ、変えられるぞ?」
そう言われると、変えたくなってくる。
それでも最初の勘を信じるしかない……。
「……はい」
「クロア君、人の宿命はあらかじめ決まっているんだ。
君もこの世界の人間ならわかるだろう?」
「はい……?」
宿命とは?
ロルドは残念そうな顔をして語りだした。
「はあ……。本当に残念だな、教えてあげたかったのだがな。
どうやら君はビア様に会うべきではないらしい」
ロルドが手を開くと、白蛇が顔を覗かせた。
「あ……」
やっぱり、俺の運勢が悪いからこの結果なのか……?
「どうしても会いたいなら、自力で頑張って探すことだな」
そう言うと、ロルドはそそくさと立ち上がった。
「すいません、お勘定を」
「あの……もう一回とかは無理ですか?」
「それは無理な話だな。何度やっても結果は同じさ。
わかるだろう?でも俺は君を応援しているよ……それじゃあね」
そう言うとロルドは早々に動き出し、扉に手をかけた。
「……折角のチャンスが潰えた」
◇
「あの少年がビア様の言っていた例の少年か。これは面白くなるかもな……」