運命の変更
◇
クロアとエルクは元いたテーブルがある部屋に戻ってきた。
「話し合いは済んだ?どうなったの?」
「クロア君がこちらの代表者で決まった」
「すいませんビアさん。俺は乗り気がしてないんですけどね」
「仕方ないのね……?」
「はい……」
「こちらも話し合った結果……。こちらの代表者はシロンに任せることにしたわ」
ビアはシロンに合図をした。
ビアさんのあの能力が無いなら、それが最善策だと思いますよ。
あの様子じゃ、ミアちゃんに頼むわけにもいかないし。
「そうか、まあそれもいいだろう。どちらにせよ運命はもう決まっている。
私はこの勝負を見守らせてもらうとしよう」
エルクはテーブル近くの豪華な椅子に座り、勝負の行方を見守る。
「でも、味方同士で戦うことになるとはね……」
「では早速、始めようじゃないか」
ロルドがカードをシャッフルする。
「カードのシャッフルは公平性を期すため、交互に行う」
「いいわ」
「シャッフルをした者が、イカサマが起きていないか見張る」
なんだか異様な雰囲気だ。
俺は今まで隣にいた人と、こうして向かい合って勝負をしているんだから。
おまけに同じ日本から来た人ときたもんだ。
「やるからには、お互い全力でぶつかりましょう」
「いや……」
シロンさん今の状況がわかってるのか?
なんだか全力で楽しんでいるようだけど。
「カードのシャッフルは終わった。互いに山札から一枚ずつ引いてくれ」
クロアは勝負に負けるため、能力は使わずカードを引いていった。
「1、3、7だ。スペードは無い」
よし、それほど大きくない数字だ。
シロンは勝つために、能力を使い引いていった。
「私はここで勝たなくちゃならないよね。きええええええええい」
「すごい声出してますね?」
ほんとうにどこから声出してるんですか?
「ごめんね?気合を入れているの。……5、10、12で、スペードは10の一つか」
「これは、11対22でシロンさんの勝ちですね」
「……ではカードをシャッフルして下さいビア様、次はそちらの番ですよ」
「あまりいい気にならないでね?ロルド?」
ビアはカードを受け取り、華麗にシャッフルしていく。
「まだ勝負はどうなるかわからないわ、油断はしないでね?シロン」
「じゃあ次はそちらが先に、カードを取ってくれ」
「よし、気合を入れてっと。きええええええええい」
まさか……。すかさずクロアは能力を使った。
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青☆凝視
対象者一人が発動している能力を見破る。力があるほど正確にわかる。
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「8、12、13でスペードは無しか……」
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グレー☆運命掌握
あなたの力では能力の詳細はわかりません。
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「この能力は……」
シロンさん、この能力は……。
名前しかわからないけど、これはチート能力ではないですか?
「まさか私の能力がわかったというの?」
「だって明らかにカードの出がおかしいんですもん」
「この勝負は能力の使用は禁止していない。物理的なイカサマは禁止だが」
「ならクロアも少しぐらいは使ってもいいんじゃない?
いくら負けたいからって言っても、これだと楽しくないから……」
「そりゃあそうかもですけどね……」
その後も二人は互いにカードを捲りあっていく……。
出ていく数字はやはりシロンの優勢で進んでいった。
「9、11、ジョーカーだ。スペードは無い」
「これはもう勝負は決まったも同然かしら?」
◇
そしてあからさまに運命は決した。
驚くほど簡単に決着はついた。
「まさかこちらが本当に負けるとはね……」
「だから言ったでしょう?私たちが勝つって」
「これは……。どうやら話が違うんじゃないか?ロルド君?」
「いいえ。これでいいんですよ、ほらようやく来たようですよ」
その瞬間、入口の扉からぞろぞろと人が入ってきた。
部屋は瞬く間に覆面の集団に埋め尽くされ、クロア達は逃げ道を塞がれた。
覆面達は完全に四人を取り囲んだ。
「……」
覆面達を従えるように、豪華な仮面の人物はそこに立っていた。
あれは……?あの豪華な仮面は……。いつかのミスティックのボスか?
あの時、俺をじろじろ見てきたことはまだ忘れてないからな……?
「ミスティックの覆面達……?こんなところまでやってくるとは何事なの……?
どうやら私たちを逃がさない気のようね。これは一体どういうことかしら?エルク。
私たちは勝ったのよ?約束が違うじゃない?」
「……すまないが、私にもわからない。ロルド?一体これはどういうことだ?」
「さあどういうことなんでしょうかね……?」
「ロルド……。まさかあなた……?」
パチパチパチ、という音が部屋全体に響く。
豪華な仮面は急に大きな拍手を始めた。
その音は力を持っているかの如く、皆の注意を引くとともに場を静かにさせた。
「……これは良いものを見させてもらったわね。
今から行われるショーはとても楽しいものになるでしょう」
豪華な仮面の声が、部屋中に響き渡った。
「あの声は、まさか……」
ビアは驚きを隠せない声で言った。
「ベアトリーチェ……なのか?」
エルクは驚いた表情で、豪華な仮面の人物をじっと見つめた。
「え?誰?」
ベアトリーチェって誰だろう?初めて聞く名前だけど。
「さあ、これを受け取るのです」
豪華な仮面は一枚のカードを、クロア達の頭上へと投げた。
なんだろう?あのカードは……。
うっ……。
クロアは頭を抱えて、その場に屈みこんだ。
「一体どうしたのクロア、大丈夫?」
ビアはクロアに必死に声をかけた。
シロンも頭を抱えて、その場に屈みこんだ。
「……シロンまでも、いったいどうしたというの?」
「やめて……」
ミアは誰にも聞こえないような、か細い声で言った。
そのカードは二人の頭上に不自然に浮いていた。
クロアの体からはカードへと、黒い炎が溢れ出していく。
シロンの体からはカードへと、白い炎が溢れ出していく。
二つの炎が均衡を保って、カードに向けて火花のように溢れ出していく。
そして眩い銀色に光ったカードは……。
やがて黒いオーラを身に纏い、瞬く間に黒い靄のようなものを次々と生み出して……。
辺りを黒く塗り潰していく。
「これは一体どういうこと?
まさかあの塔で起きたことが、今ここで再度起きているというの?」
「ロルド、これは……どうなっているんだ?」
「これだよ、この展開なんだよ。最高だ。そうだろう?」
「ロルド……」
「く……そ、あの時と同じか」
誰にも聞こえないような力の無い声で、クロアは言った。
薄れていく意識の中でクロアは……。
何故かこの世界に来る前のことを思い出していた。
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「これは誰のせいなんだ。みんな自分勝手すぎるよ」
「でも人は誰でも自分勝手なものよ」
そうだ。あれはビアさん……?
いや違う。あれは……。
「じゃあ君も?」
「もちろんそう。だからこうやって人は集まってこないし、文化祭の準備は滞る」
「そういうもんか」
「でもそんなものじゃない?やりたい人だけがやればいいんだよ」
「あいつら爆発すればいいのに」
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そしてカードに集まっていった炎はどんどん勢いを増し広がり……。
……やがて、その炎は一点に集結して大きな塊となり、
勢いを貯め続け、最大限に大きくなると弾け飛び、とてつもない大爆発を引き起こした。
大きな衝撃音と共に、大地は振動し、建物は悲鳴を上げた。
そして周りにいた人々は気を失い、その場に倒れこんだ。
第一部はこれにて完結です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。