エルクの根城
朝日が眩しいな……。昨日はビアさんと話し込んだけど、どうなることか。
さて、宿屋を出てみんなに会うとするか……。
「あれ」
宿屋の扉を開けようとしたクロアは、その場でよろけた。
……なんだか変だな。
頭に映像が湧いてくる。この光景は……。
これはいつかにも似た感覚。頭の中で何かが起こっている。
また予感が、見えた……。
今日俺はエルクさんと出会う。そして……。
あれはなんだ。カードみたいなもので戦う……。それで今後の未来が決まる。
これはたぶん……もうすぐ起きることなんだろうな。
◇
この二日間、長いようで短かったが、今日でようやく目的地の国境にたどり着くんだな。
四人はディオンの町の北、国境付近にまで足を延ばしていた。
「すぐさま国境に向かいますか?」
「そうしたいところだけど……。まずは近辺の人に聞き込みをして情報を探る。
それからもう一度能力を使う。その時は、ミアちゃんあなたの出番よ」
「はい……」
「それで位置を完全に特定するの、まずはこのあたりで聞き込みをするわ」
「わかったよ」
あの予感のことは……。どうせこれから起きるのだから言う必要はないか。
「今日で旅はおそらく終わりだろうけど……。みんな頑張ろうね」
シロンさんいつになく意気込んでますね。
何かが吹っ切れたようにも見える。
「……一応今は俺の護衛なので側にはいてくださいね」
「わかってますよ」
「ミアちゃんも、さっきから俯いているけど……大丈夫?」
「はい……」
今度は緊張でガチガチになっているな。
「どうか何事もなく、終われるといいんですけど……」
「そうだね……」
それから四人のエルク探しの捜索は続いた。
◇
数分後。
「……エルク様がいる建物がわかりました。北にある時計塔の中です」
「これでとうとう居場所がわかったわね」
さて、どうなることか。俺も緊張してきた。
「そこに行けばエルクがいるのね……」
「エルク様……」
「ミアちゃん大丈夫?」
今度は生気が無くなってきているように見えるけど。
「あのね、実はミアちゃんには昨日の夜色々と話しておいたわ」
「え?じゃあ俺のことも?」
「エルクと会うのに、もう隠してなんかいられないでしょ?
事前に知っておいたほうがいいと思って」
「もはや一緒に行動する以上、それは仕方ないよね……?」
それはそうかも知れないど、シロンさんの事も話したのか?
ミアちゃんはたくさんの真実を受け止めきれるのかな?
「あの、私……大丈夫ですから」
「全然大丈夫じゃなさそうに見えるけど」
「大丈夫です……」
体が全く動かないで、か細い声だけ出してる。これもうダメでしょ。
◇
数十分後。四人は目的地にたどり着いた。
「どうやらエルクはこの時計塔の中にいるようね」
「はい……」
とても大きな建造物。時計塔とは名ばかりの大きな城のようだ。
まさしくボスの根城といったところか。
「もしかして一人は外で待っていたほうが……。
何かあったときにいいかもしれません」
「……じゃあ、シロンはここで一人で待っている?」
「でもやっぱり決着を見届けないといけない気もするし」
そうだなあ。たとえ罠でもここはみんなで行きたいよな。
本当の物理的な罠なんて、この世界には存在しないんだろうけど。
◇
「……良い?……開けるわよ?」
四人は恐る恐る、その大きな正面の扉を開けた。
時計塔の内部は広く、大理石できた空間がその場に調和をもたらしていた。
目の前には見覚えがある、青いローブの男が立っていた。
「……ロルド」
「やあ、みんなようやく来たね。首を長くして待っていたよ」
「ロルド、よくも私の前に堂々と顔を出せたわね」
「やあビア様、その後調子はいかがですか?」
「まあ、ここは相手の口車に乗らないで、抑えて抑えて……」
シロンはビアを必死に宥めた。
そうとう怒ってるな、これは。
「エルク様は奥の部屋でお待ちですよ。ついてきてください」
四人はロルドに言われるがまま連れていかれ、奥の方へと歩いた。
◇
「エルク……」
四人の目の前には白く輝く神官の服を着た、エルクがいた。
「みんな、よくここまで来たね。
……言いたいことがあるのはわかるが、まずは黙って私の話を聞いてほしい」
「聞けるわけないでしょ?今までに自分がしたことを覚えているの?」
まあその通りだけどね。
「何か思い違いをしていないかい?」
「してない」
ビアさんは反論に夢中。
シロンさんは冷静に事を見定めている様子。
そしてミアちゃんは……。
……固まっている。完全に氷になっている。
気絶してないよね?大丈夫か?
「早速なんだけど一つ勝負をしないかい?」
「勝負?」
「カード勝負だ。それでそちらが勝てば何でも言うことを聞こうじゃないか?」
「ふざけないで」
「ふざけてなどいないさ。そちらが勝てば何でも言うことを聞こう。
質問にも答えるし、能力も返すし、もう二度と邪魔をすることはしない。
そしてクロアにも自由を与えよう」
「やっぱりあなたが……」
そこに俺が入るんだ?
「そんなこと承諾するわけ……」
「じゃあ、黒い炎で世界を焼いてもいいのかい?」
「それは……」
これはどう見てもエルクさんが悪役にしか見えない。
これは脅迫じゃないか?
「どうだい?勝負をする気になったかい?」
「こちらが負けたら?」
シロンが唐突に言った。
「その場合はこちらに協力してもらう。もちろん黒い炎で世界を焼く協力ではないよ」
「具体的にはどういう?」
シロンさん、それはナイスな質問。
「それは今は言えないな。でも君たちに不利になるようなことではないとだけ言っておこう」
「……」
「少し考える時間をあげよう。それからでも遅くはない。最も……断ることはできないだろうけどね」