相術
「そういや君はこの国の出身じゃないんでしょ?」
「えっ」
痛いところついてくるね、リンさんは。
「見てたらわかるよ、まずそんな服この国で売ってないしさ」
「あーそうだね」
そういうことね……。ここは適当に話を合わせとくか……。
「占い師の知識も全然ないみたいだし」
「そうだね」
「おそらく蛇国の辺境のあたりの出身でしょ?」
「あーそうだった、そうだった」
なんだよその蛇の国ってのは……。
「駄目だよ、自分が生まれた国は大切にしないと」
「そうだよなあ」
俺は生まれも育ちも日本なんだけど……。
「ほら蛇国といえば、あれが有名でしょ」
「あーあれね……。あれ?」
「すっごく有名だよね。あの国のシンボルだよ」
あ、れ、とは……?
「ほら、うねうねしてて……縁起が良い……」
「……あー白蛇かな?」
確か白い蛇は縁起が良かったんじゃなかったっけ……?
「ピンポーン大正解、さすがに蛇国に住んでて白蛇を知らないのはないよね」
「ですよね……。はは」
「……やっぱりこの辺りはちょっと退屈になったりするの?」
「え?」
この辺りとはどのあたりなのですか……?
「……そ、そうだね。占い師さんも少ないし」
「やっぱそうかー。私、最近この辺りに来たんだけど」
「うん」
……ところでお姉さんはどこの国出身なんだろう。
「この国のこの辺りは本当に占い師さんがいないよね」
「そ、そうですね」
ということは他の場所には占い師が沢山いるってことか?
「だからこそ、私に仕事が回ってくるんだけどね。
……っていつまでも世間話してちゃダメだった」
「ああ、それで運勢を良くする方法を教えてくださいよ……?」
「そうだった、でもちょっと待って。話してたら喉がカラカラだよ。飲み物飲んでくるね」
「そうですか……。じゃあここで待ってます」
◇
うーん、何とか話を合わせられたかな?しかし有益な情報を得た気がする。
思えば俺は、この世界のことをもう少し理解するべきだった。
自分の今いる国の名前すらわかってないもんな。
「何か地図的なものでもあればいいんだけど……」
あ、あれは……。
クロアが職業協会の資料スペースを見回していると、一冊の冊子が目に入った。
その冊子を手に取り、見てみる。
「こ、これは観光ガイドかな……?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
この世界は四つの国で成り立っています。
すなわち風国、功国、明国、蛇国です。
昔は戦争などがありましたが、今では四つの国は互いに協力し合っており、
それぞれの特徴を持って成長し続けています。
ですが今、占い師が足りていない国があります。
功国です。
この国のこの一帯は、現在神官様のビア・チェレーチェ様一人ですべてを賄われています。
世界の占い師よ、ここ功国に集え。
占い師の時給大幅アップ中です。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
なるほど、さっと目を通したが国は全部で四つあって、
どうやら今いるこの国は、功国というらしいな。
なんて読むんだろ……。
◇
「あ、ごめん、待ったー?」
「いや、大丈夫です」
「じゃあそろそろ本題に戻ろうか」
「はい、よろしくお願いします」
「占い師には四種類の色があって、それぞれ得意なことが違うってのは分かったよね?」
「はい」
「まあ、今は他の色の説明は置いといて、私が持っているこの青色のバッジ」
「青属性ですね」
「そう、この青色は相術に長けた色なのです」
「相術……?」
「簡単に言うと、物のかたちをもとに占うってことだよ」
「かたち?」
「聞けばわかると思うけど、さっき私が見ていた人相や手相、あとは風水なんかもこれに入るよ」
「なるほど。風水力がアップするとかいう、よくわかんないあれのことか」
「そこがよくわかってほしいんだよなあ」
「だって着る服や家具の配置を変えたら、運勢が良くなるのとかなんかおかしくないですか?」
「何がおかしい?」
「自分が変わってないのに、周りを変えただけじゃん」
「周りを変えたから、自分が変われるんだよ」
「自分自身が変わらなきゃ、無意味でしょ」
「それは違うなー、周りを変えるイコール自分が変えてるだから。
結果的に自分も変わってるんだよ?」
「なるほど……?」
◇
「じゃあ俺は、具体的にはどうすればいいんですか?」
「なあに簡単なことだよ。私が用意した服を着て」
「はい」
「私が用意した家に住んで」
「はい……?」
「私が用意した食べ物を食べて」
「は……い……」
「私が用意したスケジュールで行動するんだよ」
「そんなの嫌だあああああああ」
「あ、ちょっとクロアくん逃げないでーーーー」
◇
「無理です」
「じゃあ服だけでもいいから変えてみて」
「嫌です」
「じゃあ何ならやってくれるの?」
「なんなんだろ、本当に思いつかないな……。
どうやら俺には風水は合わなかったみたいです」
「ええーー。私たち……あんなに……約束したのに……」
「そういうのもういいです。確か他にも運勢を良くする方法はあるんでしたよね?」
「まあ……あるにはあるよ?」
「どんなのですか」
「相術には人相学というのがあってだね」
「顔を見るやつですか?」
「そう。クロア君、君はどうやら人相も良くないようだ、それに疲れてる顔をしているね」
「毎日が辛いから、人相にも出てきちゃうんじゃないですか?」
「違う違う、人相が悪いから、運勢が悪いの」
「人相が先?」
「そうだよ。ちょっと待ってね……」
リンは何やらバッグをゴソゴソし始めた。
◇
「ほーら、これを使って……」
カラフルなメイク道具達が俺を取り囲んだ。
「うわっ、何をするんですか」
「え、人相を良くするメイクだよ」
「俺は男ですよ」
「え、普通男でもするでしょ」
「やめてええええ」
「動いちゃダメー」
「あっ……」
……そういや派手なメイクしてる男、町でたくさん見てたわ。
◇
「やっぱ無理です」
「えー、もう少し頑張ってみようよ……」
「……そういやさっき言ったこと覚えてますか?」
「えーっと確か、神官様に会ったって」
「それです」
「仮にリンさんの方法を全て試したら、どのくらいで運勢は好転しますか?」
「それは……」
「それは……?」
「やってみないとわからないかな……」
「神官様より早くできる自信はありますか?」
「……正直ないかも」
リンは俯きながら答えた。
「それじゃあ、確証が全くないじゃないですか」
「でもとりあえずやってみてさ、ダメだったら別の方法を……」
「嫌な事をやって運勢も良くならなかったら、やる意味が無いと思うんですが」
「……」
不穏な沈黙が部屋に流れた。
◇
「じゃあそろそろこの話はこの辺で。俺もう戻りませんから。
短い間でしたけど、話はすごく為になりました、ありがとうございました」
そういうとクロアは部屋を飛び出した。
リンは引き留めようとしたが、先ほどの会話を思い出して思いとどまった。
◇
「……そうだよね、クロアには私も障害に見えるんだもんね、残念だな……」