またしても襲われる
……この状況には既視感がある。いや実際にあったんだった。あの時はどうしたんだっけ。
数人の覆面の男たちが宿屋に入り、辺りを見回していた。
「白い衣装の三人組だよな?」
「間違いない。あいつらだ」
またしても、宿屋の中にまで覆面が来るとは。
でも今はあの時とは状況が違う。俺は神官だし、頼りになる仲間がいる。
この状況が分かったということは、相手の中には俺たちの居場所がわかる能力者でもいるのか?
それにしてもまだ組織がこんなに活動をしているとは……。今まで何をやっていたんだ、明国の神官は。
「戦うしかありませんかね、皆さんやれますか?」
とにかく撃退するしかないか。……って、あれ?
「私、こういうの無理なんでお任せします」
そう言うとシロンは陰に身を潜めた。
シロンさん、必死に隠れても衣装のせいでどうしても目立っちゃってますけども。
それに俺の護衛として、それはどうなんでしょうか。
「シロンさん戦えないの?じゃあビアさん、戦えますか?」
「もちろんよ」
ビアはそう言うとファイティングポーズをとった。
こっちはめちゃくちゃ頼りになりそうだな。
「あと、ミアちゃんは……って、あれ?いないや」
「あなたたち、私たちが誰だかわかってこんなことをやっているの?」
ビアは、3人の覆面の目の前に立って怒鳴りつけた。
「しらねーよ」
「私がその気になれば、あなた達全員今すぐ牢屋にぶち込むことができるのよ」
ビアさん、立場が変わって仲間になると……。やっぱり頼もしいね。
そして構えが独特だけど、それどんな格闘術?
「そんなのしったことか、お前たちを捕まえれば、報酬がたんまりもらえるんでね」
「俺は報酬なんて関係ないね、恨むべきはシークスフィアの犬だけさ」
「そうだな、俺はミスティックに光が灯ればいいだけだがな」
「あーごたごたうるさい!とにかくやるわよクロア」
ビアさんならお金や権力でも解決できそうだけど……やっぱりここは実力行使か。
「こういうやつらはちゃんとわからせないといつまでもねちねちくるのよ。
ここで絶対服従させるのよ」
「はい……」
うん、女って怖いね。そしてこの言い方は、もうやり慣れてるね。
「おまえら、やっちまうぞ」
その一声で覆面たちが一斉に物理で殴り掛かってきたので、クロアは華麗に避けた。
「チッ……はずしたか」
大ぶりな拳だな。まさか全員素人か?
クロアは隙を見逃さず、すかさず反撃に出た。
「グッ……」
これならまだシャボンの裏通りの連中のほうが強いかもな。
いや俺がこの世界に来てから成長したのか?
その後も拳一本でクロアは応戦していった。
◇
「ぐわああああああ」
クロアがビアの方を見ると、華麗な足技を披露していた。
飛び蹴りがクリティカルヒットか。
あんな格闘術があるとは、やはり恐ろしい人だ。
しかしこの衣装でも、意外と戦えるもんだな。
「やるじゃない、クロア」
「喧嘩は割と自信あるんで」
なんか前にもこんな話をしたような……気がする。
……あ、思い出した。そういやビアさんって、何かセリスさんとキャラ被ってね?
「もしまたこんなことをしたらわかるわよね?」
ビアさん怖い怖い。前の嫌なこと思い出しちゃう。
「すいませんでした」
覆面たちはボコボコにされて、逃げ去っていった。
「……シロンは何か格闘術を学ぶべきね。能力を封じられた時に困るわよ」
「そうかもですね」
シロンさんほどの力があれば、覆面してても透過して大丈夫なんじゃないか?
そんな予感がした。
実際今の戦闘でシロンさんに一切攻撃は飛んで来なかったし。やっぱり何か能力を使ったのだろうか。
今度機会があったら見破ってみるか。
◇
三人は覆面を追い払って、周りに仲間がいないことを確認し一息ついていた。
「そういえば、前に起きた事件の事を知っていますか?覆面たちが町に現れたという」
「もちろん知ってるわよ」
「前にも今みたいなことがあって、俺連れ去られて大変だったんですよね。
その時にあいつらのボスの仮面の奴と対面して……。でも相手は何にもしてこなくて」
「それで牢屋に入れられたんだってね、セリスさんから聞いたわ」
「たぶん今のもあいつらの仲間ですよ。ボスの名はジョーダン・ヒルトンだっけか」
「それはたぶん偽名ね。今ではライラ・ロットと名乗っているはずよ」
「コロコロ変わるんですね」
「そうすることでいろいろ利点があるんでしょう。でも本人は一人のはずよ。
数年前に反抗組織ミスティックを立ち上げてどんどん勢力を拡大。
シークスフィアに恨みがあって何らかの力で常に監視しているらしいわ。
ボスは名前も性別も体格もわからない謎の人間。
明国の神官でもミスティックには歯が立たなかったようね」
「そうなんですね。
……でも俺たちの能力が合わされば何とかすることできませんかね?
特にシロンさんなんかすごい能力を持っていそうですけど」
「本気なの?私たちの目的を忘れたの?」
「ちょっと喧嘩を売られたんで。今回二度目なんでさすがにイラっと来たというか」
「私たちの目的はエルクに会いに行くことよ?リベンジしたい気持ちはとてもわかるけど。
とりあえず今は明国、功国の両方に今回のことを手紙を書いておきましょう」
「じゃあこの旅が無事に終わったら……良いですか?」
「それを報酬に変えるというのならいいわよ。ただし本の件は無しにするわよ?」
「うう……」
ちょっと悩むなあ。
「どちらが良いかよく考えることね。私だって売られた喧嘩は買いたいわよ。
でもどうせやるなら、時間があるときに徹底的に叩き潰すわ。
こちらには占い力二万の神官に最強の私がいるのだから、勝機しかないわ」
ビアさん、それは怖すぎでしょ。
「とにかく今は先を急ぐわよ。こんなところでもたもたしていられない。
覆面は待ってくれてもエルクは待ってくれないの」
いや、俺エルクさんもちゃんと話せば待ってくれると思うよ?
◇
「あの……何かあったんですか?」
「ミアちゃん今までどこにいってたの?」
「ちょっと用事があって、出かけていました……」
「覆面たちがこの宿屋に殴り込んできて、大変だったんだよ」
「私の護衛なんだから、いつも一緒にいなければ駄目よ。急にいなくなることは禁止」
ビアはミアに強く命令するように言った。
「はい……」
「しっかりしなければあの約束は守れないわよ」
「大丈夫です。もう二度とこんなことはしませんから」
ミアはビアに懇願するように言った。
ミアちゃん……それでいいのか?
でも少しは体調良くなってきたのかな?