これが国産A5ランクの牛肉の力か
そうだね。ここは本名をもじった、あの名前にしよう……。
「シロン・メッカというのですよ」
「あの……」
青い服の女性は少しうつむきながら言った。
あれ、どうしちゃったの?私何か変なこと言った?
「さ、最高ですね、お名前。姓名判断的に最高のお名前ですよ。
やっぱり神官様になられるお人は、生まれた時から最高のお名前を授かるんですね。
シロが入っているなんて何てことでしょう。
生まれた時から、未来の境遇さえも決まっていたのですね」
青い服の女性は興奮気味に言った。
「それはどうもありがとう」
だよね、姓名判断で最高の運勢を叩き出したこの名前。
さすが私の夢!よくわかっている!
その辺の住民の会話すら本当に気分がいい。
「では、私はこれで。励むように」
なんだか位が上の者らしいので、それなりのことを言って去ろう。
まあ夢なんだし、これくらいいいよね。
「はい。話を聞いてくださり、ありがとうございました。神官シロン様」
そう言うなり、青い服の女性はニコニコしながら立ち去っていった。
やっぱりここは私の理想の夢の世界らしいね。
こんな服を着ていても怪しまれるどころか、尊敬の眼差しだ。
お姫様じゃなかったのは謎だけど。
神官か。良いじゃない、神に仕える身。
さっきの様子を見るに、民に憧れられる職業なんだろうね。
こういう普通に生きていたらなれない職業、一度体験してみたかったんだよね。
じゃあもう少し、この世界を探索してみますか。
◇
シロンは良い匂いに惹かれて、ふらふらとあるお店の前までやってきていた。
この街の建物はどれも派手だけど、このお店はまた一段と豪華。
ここはどうやら飲食店らしい。キラキラした看板が実に縁起が良くて好きになる。
私、お金無いけど食べられるかな。高そうなお店だけど。
なんだかお腹空いてきたんだよね。
これは夢の世界だったはずなのに、おかしいな。でも中が気になるから入っちゃおう。
シロンはその衣装に負けないぐらいの気持ちで、堂々と店に入った。
中もやっぱり良い感じ。
清掃も行き届いているようで、店内はピカピカ。
装飾と相まって正しく煌めきを感じとれるような雰囲気だった。
シロンが飲食店に入ると、注文係と思われる派手なスーツを着た男性が近寄ってきた。
「神官様、よくぞいらっしゃいました。
今すぐに、できる限りのお料理を持ってきますので、どうぞあちらでお寛ぎください」
派手なスーツを着た男性は丁寧に挨拶をし、シロンを案内した。
「ありがとう、よろしくね」
さすがのVIP待遇、わかってるね。
しかしなんでお腹が空くんだろう、夢なのにね。
でも夢でも別に食べ物って食べれたよね。そうだよね。
シロンは案内され、カラフルなソファに腰かけた。
なかなかにしっくりくる良いソファだね。これならまったりできそう。
曇り一つないこの窓から、外が見えるんだね。
シロンが窓から外を見ると、派手な街が一望できた。
ここから眺めていてもわかる。やっぱり私が望んだ快適な街だ。
なんでこんな街が現実には無いんだろう。外国とかに行けばあるのかな。
夢が覚めたら、ネットで探して早速旅行の計画を練らなくては。
覚えとくんだよ、私。
◇
「お料理をお持ちしました」
ほんの数分で先ほどの注文係が、料理を抱えてやってきた。
次々と置かれていく料理はどれも彩り豊かで、まさに見ても楽しめるものであった。
独特な形をした色とりどりの食器に、料理が見事に収まっていた。
すごい。高級食材で机が埋め尽くされていく。
私、絶対こんなに食べきれないよ。あ、でも夢だから食べられるかも。
高そうな肉。ただ焼いただけなのに、絶対的に美味しそうなステーキ。
みずみずしい大きなサラダの器と、色々なフルーツが盛られたスイーツ。
あと高そうだけど、何かよくわからない食べ物もちらほら。
私は食べ物のことよくわからないけど、これ絶対おいしい奴だ。
兎に角、早く食べたい!
「ではどうぞごゆっくりお寛ぎください。何かあればそこにある呼び鈴をお鳴らしください。
それでは」
派手なスーツを着た男性は丁寧にお辞儀をし、去っていった。
料理が出そろったみたい。今日はとびっきりのチートデイね。
「いただきます」
まずは、このステーキを一口。
「う、ま」
あ、あれ?普通に食べれた?夢なら普通味とかわかんないよね。
でも味が鮮明にわかる!
夢なら太らないから永遠に食べられる!
なんてすごいのこの夢の世界は!
口の中ですぐにとろけて無くなるステーキ。
こんなにすぐ消えてしまうなら、いくらでも食べれる気がする。
「これが国産A5ランクの牛肉の力か」
一度は言ってみたかったけど今やっと言えた。そのぐらい美味しいな。
シロンは次々と料理を食べ進めていった。
◇
「だめだ、もう入らない」
普通にお腹は膨れた。なんで膨れたの。まだ料理は残っているのに。
次第にある予感が頭に浮かんできた。
「まさかこれは、夢じゃないの?」
そして顔をつねる。痛い。
でも夢でも痛みは感じる時もあるから、あはは。
そして行きたくなるトイレ。
あーあ?夢でトイレぐらい普通に出てくるしね。
◇
そういやお会計どうしよ。
でも夢だしね。でも現実かも。
まだ夢のほうが勝ってるから。7対3ぐらいの割合で勝ってるから。
街を見ても、どう考えても私の想像どうりの街だしね。
この衣装も……。これが現実なわけがないって。
よし、じゃあ店を出よう。まだまだ見てみたい場所がたくさんあるんだし。
シロンは立ち上がり、店の出口を目指した。
◇
派手なスーツを着た男性が、出口付近の受付で待っていた。
「ありがとうございました。神官様」
ここは神官という上の立場を利用してうまく乗り切るのよ、私。
「ゆっくり寛ぐことが出来ました。ありがとう」
「いえいえ、ありがたきお言葉に感謝です。ではお会計のほうは……」
「え」
動揺しないで、私。そう、これは夢。私は神官、とってもえらい。
「あ、れ、で……」
「ああ、わかりました。すぐに気付かずにすみません。では協会のほうに……」
「ああ、そうね。教会のほうに請求しといてくださる?」
「かしこまりました。あの……失礼ですがお名前のほうは……?」
「シロン・メッカですよ、神官シロン・メッカ」
「さようでございますか。では神官シロン様のお名前でご請求させていただきます」
「そうね、よろしくおねがいするわね」
「では神官シロン様、お気をつけて」
何とか乗り切れたけど、架空請求しちゃった。
まあ夢だからどうでもいっか。そんなことより今はお腹が苦しくってよ。
◇




