もしこの中で一人を選ぶとしたら誰を選ぶ?
ビアは白い部屋でロルドに愚痴をこぼしていた。
「なんであんなことになったのかしらね、やっぱり黒の能力のせい?」
「さあどうでしょう……いくらビア様でも、上の命令には逆らえませんから」
「はあ……クロアも強くなったものね」
ビアはそういうと肩を落とした。
「そうですね、面白いやつです」
「え?」
ビアにそう言われると、ロルドは少し慌てた様子ですぐに次の言葉を発した。
「戦わないで勝つ……とか言っていたらしいですね」
「占い師の戦い方の基本なのだけれど、どうやらクロアは知らなかったようね」
「まだ経験が浅いんでしょう。それなりの知識はあるみたいですが」
「上に目をつけられたんじゃ、もう私の手中には入らないのかしら」
「そうかも……しれませんね」
ロルドは気を遣うように、言葉を濁しながら言った。
◇
「ねえ、エルクは何を企んでいるのかしら」
「それは……未来を見て見たらどうです?」
「そうね、見れたらそうしたいのだけど」
ビアは瞑想を試みたが、すぐにその目を見開いた。
「やはりまだ見れませんか……黒の素質……ですかね」
「あれはやはり危険なものよ。
私が見た未来では言うに堪えない残酷なことが起きていたわ。
どうしてクロアは容認されたのかしら」
「……上には危険がないと判断されたのでしょう」
ロルドは言葉を詰まり気味に話した。
「どうやらもう少し黒の素質について調べる必要がありそうね。
あの男もいることだし」
「例の協力者ですか?」
「そう、レイよ」
「彼は色々な事をよく知っている。とても頼りになる男よ。
ギャンブルに負けたら簡単に相手の言うことを聞くのはどうかと思うけど。
彼の能力、セレクト。使い方を考えれば、とても便利な能力だと思わない?」
「そうだと思います。新たな護衛にされるおつもりで?」
「そうね、しばらくはね」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
三人の女性たちは、再びクロアの狭い部屋に集まっていた。
「ねえ、それで結局神官ゾル様に助けられたってこと?」
リンは、はきはきとした声で言った。
「まあ、そういうことになりましたね」
「それで本当に正式な占い師になれるのですか?」
ミルは訝しむような声で言った。
「そうですね、たぶん。まあ……成り行きで」
「どうやら、上手く刹那を使えたのですね」
「ああ、ミアちゃんの助言で助かったよ」
「なんだか、全部が丸く収まりすぎてる気がするよ」
「いや、ここまでうまくいったのはみんなが協力してくれたお陰だよ。
ありがとう。これはお礼です」
そう言うとクロアは三人にそれぞれお礼の品を渡した。
「わあ……。これは高級そうなお菓子です」
「現金じゃないのですか?まあ貰えるものは貰っておきますけど」
「ちゃんとみんなの分を用意しているなんてやるじゃん?」
◇
「ついにクロアも正式な占い師になっちゃうのかー」
「普通はなれないらしいんだけどね、特例らしいですよ」
「学校に行かずに正式な占い師になれるなんて、流石クロア様……」
ミアは目をキラキラさせて言った。
「ライバルがまた増えてしまいましたわ……。どうしようかしら」
ミルはがっかりした様子で言った。
「お客をとるようなことはしませんから、大丈夫ですよ」
「本当に?嘘ではないのですね?」
ミルは強い口調で言った。
「はい……」
お金が絡むと怖いな。この赤いお姉さんは。
「じゃあ、私のお客も取らないでよね」
「え、それは確証がないな」
「えっ、ひどーい。……ねえミアちゃんひどいと思わない?」
「うーん……。クロア様はきっと何か考えがあるのです、そうですよね?」
ミアちゃん、冗談半分で言ったのにそれはどう返せばいいか困るやつだよ。
「確かに、それは不公平かもしれませんね」
「だよね?ミルさんわかってるう」
「もういいよ、わかりましたよ」
女子が束でかかってきたら、やられるな俺は。
◇
「あの……クロア様。これからもたまにここに来てもいいですか」
「え、なんで」
「エルク様に会えるかもしれないので……」
ミアはもじもじしながら言った。
やっぱそれ以外ないよな。
「なかなか来ないんだよ?エルクさんは」
「でもエルク様はクロア様の中にいます」
ミアは目をキラキラさせて言った。
「はあ……」
能力だけな。
「じゃあ、私もたまにここにこようかな」
「は?」
「だってクロアは刹那で簡単に運命を変えれるんでしょ?
それにお金も結構持ってるみたいだし。私が困ったときは頼むよ!」
「占い師なんだから、自分で何とかしてください」
前から思ってたけど、リンさんはわりと我儘だよな。
「じゃあ……わたくしも」
「え、ミルさんまで?」
「だって儲けられそうですし。
何かいい儲け話がありましたら、ぜひ聞きたいのでよろしくお願いしますわ」
結局金かよ……。ってわかってたよ。
「じゃあさー、もしこの中で一人を選ぶとしたら誰を選ぶ?」
楽しそうな声でリンが言った。
「それは聞きたいかもです……」
「じゃあ、選ばれた人が家に来れるというのはどうですか?」
「か、勝手に決めないでください」
クロアがそういうと、三人はクロアのほうに徐々に詰め寄っていった。
「一体誰が良いんですか?」
「クロア様のご加護を」
「そんなのもちろん、私だよね」
うわ、やめてくれ。近づいてこないで。
「そ、それは……」
運勢が良くなると恋愛運もアップするのか?
だからこんなことになったんだな。きっとそうに違いない。