男一人に女性三人
もしも別の国に逃げるとしたら、どこに逃げるかも重要になりそうだな。
最終的にはやはり元の世界に帰りたいけど。
クロアは来たる明日のために、入念に準備を進めていた。
期限はあと一日。
それまでに逃げるのか、戦うのか、話し合うのか。決めなければならない。
今一度、手持ちの能力を確認しておくか。
慌てて能力が使えなかったら、意味がないし。
まず青の能力が凝視、対象者一人が発動している能力を見破る。
これは今やなくてはならない重要な能力だ。
相手の能力が分かればすごく有利だ。占い師相手には活躍できそうだ。
続いて赤の能力。刹那はこの先も色々と使えそうだし重宝しそうだ。
無効になる点に気を付ければ、使えないことはないだろう。
そして黄色の能力、カミングパワー。勝負事で運を引き寄せる能力か。
例えばビアさんにギャンブル勝負で挑んでこれを使えば……。
……まずそんな展開にはならないだろうし、
仮になったとしても、これだけでビアさんに勝つことは不可能だろう。たぶん。
最後に白の能力、チェンジ。
これのお陰で俺の運勢がどんどん良くなっている。
だがどう考えてもチート能力なので、デメリットがあると睨んでいる。
そのデメリットがまだ判明していないので結構コワい。でもまだ使ってる。
◇
ドンドンドン、ドンドンドン。
クロアの家の玄関の扉を叩く音がしていた。
ミアちゃん?相変わらずドアを叩きすぎだ。
クロアが慌ててドアを開けると、三人の女性が立っていた。
「やあ、元気だったかい?」
青いお姉さん。相変わらずの青い服で元気だ。いや、こないだ会ったでしょうよ。
「お金はもう用意していますか?」
赤いお姉さん。一番占い師っぽい格好してる守銭奴。やっぱ第一声はそれなのね。
「今日は仲間を連れてきました……」
赤い妹。エルク様好き好き病にかかっているんだよな。
「……いきなりぞろぞろと来たもんだね。
じゃあ皆さん狭い家で窮屈だろうけど、中に入ってください」
クロアがそう言うと、三人は家に上がった。
「おじゃましまーす。ねえ、ここ貸家だよね?」
「そりゃあね」
◇
クロアの狭い部屋で、カラフルな丸いテーブルに向かい合いながら四人は座った。
「では今日は俺のために集まっていただいて……」
「おや?これは占いの書上級一巻ですね。あなたにはまだ早いのでは?」
早速部屋を見回し始め、目についた物に反応するミル。
「そうだよ、早すぎるよ」
言いながら、辺りを見回し始めるリン。
「そうかな?もう大体中級のことは頭にはいってるつもりけど」
ミルの行動に続き、女性陣は部屋を物色し始めた。
「あの……俺の部屋、物色するのやめてくれませんか」
「ああ、ごめんごめんつい気になっちゃって。
でも風水的には……まあまあかなあ」
「わっ……なんですかこれは」
◇
クロアは気を取り直して、みんなに向き合った。
「みんなは何か作戦を立てようと集まってくれたんだよね?」
「そのつもりだけど」
「そうです……」
「クロアさんはもう少し占いの事を知る必要があるかもしれません。
相手の力は強大です。本ではわからないことについても学ぶべきです」
ミルさん、相変わらず真面目だな。
「そういうことなので少し勉強してから……作戦を立てましょう」
「勉強なら、私が赤の能力について教えましたよ」
「それでもまだ足りないと思います」
「そうかなあ……?」
少しの沈黙の時間が流れた。
◇
「……そういやミルさんの能力は何なのですか?」
「え?そんなこと言えませんよ。
そんなに簡単に自分の能力を他人に知らせるものではありませんよ。
あなたはまだ知らないかもしれませんが、
普通占い師の能力は一人につき一つ、多くても二つ程度なのです。
ですから白の能力を持つことが、どれほど大変な事かわかりますか?」
ミルは留まることなくスラスラと話した。
知らなかった。なるほど能力は隠したほうが良いんだな。
俺はついうっかり言いそうになるから、気をつけなきゃな。
「……確か三つの能力を持っていないと、身に付けることができない……」
「そうです。よっぽどの努力家か天才でなければ普通は無理なのです。
ビア様がどれほど格が上かわかったでしょう?
能力をエルク様からもらって、楽をしている貴方にはわからないでしょうが。
とても困難なものなのです」
ミルさんは随分と長文を流暢に話すなあ。
「……話をちゃんと、聞いていましたか?」
「……はい。つまりエルクは天才ってことですね」
「そうなのです。エルク様は天才なのです」
ミアは目をキラキラさせて言った。
「あー。そういやクロア一言も言わなかったじゃん。エルク様のこと」
「え?」
「あの時すでにエルク様の能力使えたんでしょ?」
「えーっとそれは……」
クロアはうまいこと話題を変えて、話を戻した。
◇
「それでさ、逃げるならどこの国に逃げるべきかな?」
「そうだよね、おそらくこの国にいたら……」
「指名手配されちゃうかもです」
それは怖い。
「確かに違う国に行くことができれば、中々追っては来れないでしょうね」
「そうだ。私は風国のちょっとした説明なら簡単にできるよ」
「本当か。じゃあ聞かせてほしい」
クロアがそう言うと、リンは自慢げに話を始めた。
「私の故郷は風国で、私が住んでいた町には青属性の人が多いよ。
みんなだいたい青い服を着ているよ」
「なんか嫌だな」
「慣れれば大丈夫だって。それでみんなすっごく風水に気を使っているから。
町には明るい色が常に溢れていて、道端にはごみ一つないよ。
とにかく明るくて綺麗な町が多い国なんだよ」
それは良いんだか、悪いんだか……。
「じゃあ、次は私が説明致しましょう。
私の故郷は明国です。私みたいな恰好をした人がうろうろしています。
現在、占い師が一番多い国とされています。
その影響もあってか、お金持ちや貴族の家も多いです。
色んな属性の方がおられます。町は風国に比べれば全然明るくないです」
明国が明るくないとはこれいかに。
「……あとは蛇国か」
「あーそれは必要ないよね。クロアは蛇国出身だから」
「ああ。そうだったね、あはは……」
蛇国のことは自分で調べていた。
ここは国の面積が一番大きくて、山あり谷あり砂漠ありのなんでもあり。
占い師はそこまでいないらしい。そしていろいろな人が住んでる。
人口も一番たくさんいるが、中には貧困層もいると聞く。
そしてギャンブルが盛んなんだよな。
さてどこに逃げるべきか。
◇
そういや今更だけど、この世界にはスマホとか車とか、全く科学技術は発達してないんだよな。
日本の感じは残っているのに、何でないんだろう。この際だから聞いてみるか。
「あのさ、逃げる時にはさ、何で移動するべきかな?」
「移動?」
「ほら、乗り物とか……」
俺はその辺りはまったくわからない。
この世界はテレビも無いし、ネットも無いから情報得れないしな。
「馬があると思います……」
これは西洋的なのか。
「馬車を用意するなら、またお金が要りますわね」
またお金か。
「じゃあ連絡の方法はどうしよっか?」
「連絡の方法?」
「手紙ですかね……?」
「そういえば、能力に相手に自分の意思を伝えられる能力があると聞いたことがあるよ」
「そんなの、都市伝説ですわ」
「そんな方法……まさか、クロア様が使えるのですか?」
「いや、それはさすがに無理だよ」
やっぱ電話とかはないのか……。
その後も四人の話し合いは続いていった……。
◇
「ねえ、今日の夜はみんなでどこかに食べに行かない?あんまり悩んでても仕方ないし」
「そうですね、お腹が満たされれば……。何かいい考えが浮かぶかもしれません」
「それは良いと思います。もちろんクロアのおごりで」
そういやなんでいつの間に、この家はハーレムみたくなったんだ。
なんかみんな仲良くなっていって、うまく溶け込んでるし。
男一人に女性三人はまずいでしょ。いろいろと。
でも不思議と嫌じゃないんだよな。