やっぱりおかしい
またお金が無くなってきたな。働くしかないか。
一応この世界にもバイト的なものはある。
ただ人がすぐ入ったりやめたりする。まあ自分もなんだが。
それは何故か……やはり占いの力だ。
運気が上がると職に就き、運気が下がるとやめていく。
どうやらこの世界の人間は、普通このように運命の良し悪しが交互に起こるらしい。
バイオリズムとかなんとかだっけか?なので定職に就けるものは多くはない。
いうなれば常に毎日が運勢のジェットコースターのようなものなのだ。
だから安定ということがない。常にふらふらしている。
少しでも不安を安心させようと縁起が良いものを身に着けたり、
少しでも運勢が良くなるようなことは何でも試す。
でもそんな努力も、運勢の結果によってはこれっぽっちも意味はない。
……と思う。
◇
「ほらあんた、何してんだい」
おばちゃんたちの怒鳴り声がひと際目立つ。
「さっさと働きな。働けないならクビだよ、クビ!」
「どうして私があんたみたいな、
運が悪そうなおっさんを雇ってると思うんだい?」
「……」
小汚いおっさんは黙り込みながらも、軽く俯く。
「今週は貧しい人に親切にすると運気が上がる……ってお言葉があったからだよ」
「はい……」
「わかったら、ちゃっちゃと働いて私の運気を少しでも上げておくれ」
そう言われると小汚いおっさんは、嫌々そうに返事をしながらも働き出した。
「それと、そっちのあんたは今日でもうクビね。
今日分の給料はあげるから、明日からはもう来なくていいよ」
「そんな……ちゃんと働いてただろ」
若そうな少年は必死に自分の言葉を伝えた。
「働いてりゃ良いってもんじゃないんだよ。わかるだろ……?」
「俺だって運気を下げないように、毎日頑張ってきたのに……」
「…………」
「こんな小汚いおっさんより働けるはずなのに……」
そう言うと、若そうな少年は舌打ちをした。
酷いもんだな……。
きっと今日の運勢はかなり悪いんだろうな。
思えば俺はこの世界に来てからというもの、そんな人間をいくらでも見てきた。
運勢による理不尽な扱いの数々……。運勢が悪い者が虐げられる日々……。
結局これって占いが人を狂わせている……のだろうか……?
悪いのは一体誰なんだ……?考えれば考えるほどわからなくなる、この世界の摂理。
何故こうなってしまったのか……。
結局仕事が安定している人たちってのは、どうやら占い師だけなんだよな。
ここに何か秘密があるんだろう。
どうにかして、そのあたりの事を探ってみるしかないか。
そんな事を思いながらも、俺は今日も何とかバイトに勤しんだ。
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今日は少し考えてみよう。
この世界は色々とおかしい点が多いので、元の世界と比較してみようと思う。
まずは朝。自分の今日の運勢を聞かされる。
これはこの世界で決まっている毎日のルールだ。
聞かないと罰せられる。そういう法律があるみたいだ。
一度手を尽くして逃れようとしたが、すぐに警察に捕まった。
なぜこうも強制力を持つのだろう?
その運勢により人々は一日の予定を決める。
そして大体運勢の通りになる。いや運勢に乗せられるとでも言うのか……?
これだけなら良いのだが、問題はまだまだたくさんある。
さすが占いの発展した世界といったところの問題が……。
やれ手相を見てやるだとか、やれタロット占いしてやるだとか。やれ風水を見てやるだとか。
そんなことを商売にしている輩が実に多い。
特に俺は格好が格好だからか、一日に何十回と話しかけられる。
そんな事をしている暇があったら、まず自分を占えよと思ったりする。
でも自分自身は占えないんだろうな。
あとは町がいろいろとおかしい。
お店は某ディスカウントショップみたいに派手派手で……。
建物は某テーマパークみたいに煌びやかで……。
家はやたらとカラフルな家が立ち並ぶ。
……元の世界でこんなことがあっただろうか。
想像するだけで元の世界が恋しくなる。
そして極めつけは、ここに住んでいる人々だ。
服は派手、身に着けるものはなんでも派手。なんなら歩き方も派手。
で、口調はちょっと変。性格の方もちょっと変。
過ぎた占いの力のせいで、おかしくなっているのは明白だ。
「お前に悪い相が出ている、まずはその服から悔い改めよ」
この言葉を何度聞いたことか。
もう嫌になる。一刻も早くこの世界から抜け出す方法を探さなくては……。