会議
再びブルーのローブを身に着けたロルドは、占い師のリストを眺めていた。
「招集された正式な占い師のリストか。
俺以外は六名か。結構この辺にも集まっていたんだな」
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アイ・リン(青)
ミル・ステイシー(赤)
ミア・ステイシー(赤)
セリス・メルヴィル(黄)
レイ・ヴォルト(黄)
ジョセフ・ボーン(黄)
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◇
神官ビアは功国の近辺にいる六人の正式な占い師をこの場に集めた。
各々カラフルな長方形のテーブルを囲むように椅子に座り、シークスフィア協会支部で会議は開かれた。
「皆さんお忙しい中、集まってくれてありがとうございます」
そういうと白く輝く衣装に身を包んでいるビアは、軽くお辞儀をした。
「神官さんに呼ばれたら、誰でもすぐに駆け付けますよ」
この辺りを仕切っている、リーダー格のセリスは言った。
その言葉に、占い師たちはうんうん、と頷いた。
「それで何の用なのですか?」
前のめりな体制になりつつ、セリスは言った。
周りもそれに続くように聞き耳を立てる。
「ええ、では単刀直入に言います。目的はこの人物。クロアです」
ビアがそういうと、ロルドは一枚の人物像が書かれた紙をボードに張り付け、指さした。
「皆さん知らないと思いますので言っておきますが……。
この人物には……簡単に言うと、神官エルクが裏で糸を引いています」
「ええ?あの功国一の能力の使い手の神官エルク様が?どういうことですか?」
すぐさまセリスは言う。
占い師たちはみな疑問の表情を呈していた。
「ええと、詳しく話すと長くなるので手短に言います。
これはあまり他国に口外しないでほしいことなのですが……。
どうやら神官エルクは何らかの形で、黒の素質を手に入れてしまったようです。
そしておそらくクロアに自分の能力を受け渡し、今背後で何かを画策しています」
「えええ、黒の素質だってええ」
派手なスーツを着ているジョセフは、途端に叫んだ。
「そうです、今となっては闇に葬り去られた黒い資質を持っているのです」
「画策しているとは?」
「能力を受け渡すとは?」
「そんなの嘘です……神官エルク様は……」
「なんでそんなことになったのですか?」
様々な質問の声が室内に木霊した。
「皆さん様々に言いたいことはあると思いますが……ここは堪えてもらって」
ビアが強い口調でそういうと、落ち着いて皆は我に返り、場は静かになった。
「ですので捕らえて、白の神官の力で浄化し、その黒の素質を滅します」
「いいぞー」
ジョセフは小さな声で叫んだ。
「……ですが決して傷つけてはなりませんよ。
黒の素質を持っているとはいえ、相手は人なのですから。
その黒い力を取り去ってしまえば、普通の人なのです。
そうすれば何も問題はなくなります」
「俺は目の前で見たぞ!」
ジョセフは耐えられなくなり、大きな声で語りだした。
「あの少年、クロアが黒い力を使ったんだ。
私がクロアを占っているときに、それは起きた。
そしてあのビア様が大事にしておられる白い塔を、一瞬にして黒く塗り替えたんだ」
「……私も見ましたわ。私もその時、その塔にいました。
塔が黒い炎で埋め尽くされ、白い塔が黒く燃えてゆきました。恐ろしいことです」
ミルは悲しい表情をしながら、強い口調で言った。
その話を聞き、周りの占い師たちは少し神妙な面持ちになった。
「今の話は本当ですか?」
たまらずセリスは言った。
「今の話は実際にあった事です。
まあそういうことなので、クロアはすでにかなりの力を持っています」
占い師たちは各自様々な表情をしたが、もう何も言うものはいなかった。
「そこで皆さんに協力していただきたいのですが、クロア捕獲作戦を三日後に決行します。
協力してくれる方は私について来て欲しいのです。
これは命令ではありませんが、皆さんの協力に期待します。
このままクロアを野放しにしているといずれ皆さんにも……。
いや、全国各地で恐ろしいことが起きるかもしれません」
「三日後の朝にまたここに集まって頂きたい。
もちろん報酬はたっぷりとはずみます。皆さんの助力に期待します」
ビアの隣にいたロルドは、強い口調で言った。
「皆それぞれ言いたいことはあるでしょうが、すいません。
時間もあまりないので、これで会議は終わります。
質問がある方は、個別に受け付けます。
あまり時間は取れませんが、一人につき一つは答えましょう」
「じゃあ、今すぐいいですか?」
セリスはいの一番に手を挙げ言った。
「いいですよ」
「それなら、何故すぐにでも捕らえに行かないのですか」
「本当は今すぐにでも行きたいのですが、相手はあの能力優秀な神官エルクなのです。
さらに黒い資質も持っているとなると、たとえ私でも迂闊に手が出せません。
相応の準備が必要です。今まではどのように事が運ぶか様子を見ていました」
「じゃあ次は私だ」
ジョセフは意気込んで話した。
「どうぞ」
「クロアが今住んでいる場所はわかっているのか?」
「大体はわかっていますが、完全な特定はまだしていません。
プライバシーの為、場所を完全に特定するのは、法律で禁じられています。
ですが非常事態の際の特例が認められると思うので、三日後には特定が可能でしょう」
占い師たちは各自様々な表情を浮かべた。
「他に質問はありませんか?
まあ他の占い師に聞かれたくないこともあることでしょう。
この後、質問があれば個別に私が答えます」
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「あのぅ……ちょっと聞きたいことがあります」
か細い声でミアは言った。
「えーっと、あなたはミア・ステイシーさん。
確かミル・ステイシーさんの妹さんね」
「そうです……。あの……クロアの誕生日はいつか教えてもらえますか?
情報があれば、何かわかるかもしれません」
「いいでしょう、10月29日です。何かわかったら、情報の提供をよろしくお願いします」
「はい……ありがとうございました」
そう言うとミアはとぼとぼと歩き、去っていった。
◇
「あちゃー、これはまずいことになった。どうしよ。
まさかクロア捕獲作戦だなんて……。私はどっちの味方に付けばいいのーー」
リンは肩を落とし、ぶつぶつと呟いていた。
すると小さな人影がリンの近くに忍び寄った。
「あのう、ちょっとあなたに聞きたいことが……」
「どどど、どちらさま……?」
「私はミアです」