ドッグレース3
そろそろ勝てる能力を使わなくては……。
相手は偶然の中から必然を選びだす能力だったよな。
その必然の能力を変えればいいんだから、答えは簡単だ。
赤の能力。それで必然の運命を変えれば良い。
相手が先に能力を使ったから、このレース開始ギリギリの時間が使い時だ。
もう一度能力を使われたら、運命が変わってしまうかもしれないしな。
でもこれで楽勝じゃん。やっぱ時代は赤だな。
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赤☆刹那
対象者一人の運命を一瞬のうちに変える。力があるほど正確に願った通りに変わる。
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レイの能力は無効化されて八番パラダイスは優勝せず、七番福ちゃんが勝つ。
レイの能力は無効化されて八番パラダイスは優勝せず、七番福ちゃんが勝つ。
クロアはできる限り念じて、能力を発動した。
はー、楽勝だったな。
神官ゾルはクロアを見て、護衛に小さな声でひそひそと話す。
「おやおや、こちらの少年は何やら訳ありと見える」
「どうかされましたか?神官様」
「あの少年の情報はないか?」
「はあ、今の所無いと思われますが」
「なぜだ?」
「あの少年は正式な占い師ではありませんので」
「なんと」
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「七番の福ちゃん!見事な大番狂わせ!優勝です!」
実況者の驚きと激しさが交じり合った声が、会場に鳴り響いた。
「よく頑張ったザマス!」
マダムは大きな声でそういうと、福ちゃんの頭を撫でた。
「これから毎日ゴールドシチューをあげるザマス」
福ちゃんはしっぽを振って喜んだ。
……良かったな、わんころ。
「なんてことだ……今日の勝ちが全部飛んだ……」
観衆たちは殆どの者が他の犬に賭けていたため、会場ではブーイングの嵐が起きていた。
そして場の空気は途端に悪くなり、それに感づいた主催者の計らいによって、ドッグレースはすぐにお開きになった。
◇
「少年、面白かったぞ。早く正式な占い師になることだな」
レイは勝負に負けていたが、清々しく言い放った。
えーっと。運が悪かったは禁句だから……。
「はい、レイさんもすごかったですね」
「すごかった?」
「はい」
あ、こんな言い方したら、能力見る能力使ってたのばれちゃうじゃん。
「まあいい、とにかく少年の勝ちだからな。
俺の今の手持ち……。ここにある金は全部持っていけよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあな」
「ジャアな……」
そう言うとレイは取り巻きの二人を連れて去っていった。
「レイ、あっさりと負けを認めて金を置いていくとは……。
なかなか良いやつじゃん」
クロアは残された重みのある封筒の中身をちらりと見た。
「すごい額だけど……。本当にこんなにもらっていいのだろうか?」
◇
「あの能力を使っても勝てないとは……?あいつ何者だ?」
◇
「お疲れさま。とても良い勝負を見せてもらったよ」
神官ゾルは軽く微笑みながら言った。
「こちらこそ。見てもらえて光栄でした」
「あれ?レイ君は?」
「もう帰られましたよ」
「そうか……。もう少し話したかったのだがな……。
しかし君、くれぐれも気をつけて帰るようにな。周りの連中は君が勝ったことを知っているはずだ。
帰り道でどこからか襲ってくる輩がいるかもしれん。良ければ一人護衛をつけようか?」
今日の運勢も良くなってたし、それは無いと思うけど……。
さすが神官と言ったところの配慮か……。
「ご心配ありがとうございます……。たぶん大丈夫です」
「そうか?遠慮しなくてもいいのだが……。では私は急ぎ、仕事に戻るとしよう」
そういうと神官ゾルとその護衛は、そそくさとその場から去っていった。
◇
ってあれ?俺何か忘れてない?
ああ、そういや神官さんの秘密を探るんだった。
まあいいか。刹那の能力を使えばこれからいつだって会えるんだし。
何なら神官さんが、俺に秘密を教える運命に変えればいいんだし。
やっぱ赤最強ですわ。
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クロアが柱の陰から出てきた時、
ビアとロルドの二人は会場の隅に隠れて様子を観察していた。
「あ、あれは……。見てください!ビア様」
「ちょっと、クロアは何故こんなところにいるの?」
「わかりません。
今まで通りマグマで封印して体たらくな生活を送っていると思っていましたが」
「どういうことよ?本当にあれはクロアなの?」
「……どうやら見る限りそうみたいですね」
そう言うと、ロルドは能力を発動した。
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青☆透視
対象者一人をよく見ることで性別年齢生年月日性格などの情報を詳細に読み取る。
力があるほど正確にわかる。
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「これは……。ダメです。クロアの情報が読み取れない。
おそらく能力を使って、ガードしています」
「そんなバカな……?」
ビアはその驚きを隠せなかった。
◇
「何か話をしているわ、ここからじゃよく聞こえないけど」
「どうやら、二人は賭けで勝負をするようですね」
「ゾル様が、いるわね」
「下手に顔を出さないほうがいいかもしれません」
「そうね、とにかく様子を見守りましょう」
◇
「ちょっと、これはどういうことか説明して。
一流の青占い師の能力をもってしても本当に見えないの?
クロアは相当の力を持ってしまった……」
「ガードされるほどの力……。
おそらくエルク様の力かと思われます」
「エルク……」
「おそらくギャンブルに勝てたのも、エルク様の力でしょう。
しかし最後の刹那は……」
「あれは意味が無かったわね。
刹那は対象者一人の運命の一つを変えることしかできない。
あんなに複数の人間の運命が絡み合っている場では意味がないわ」
「どうやらクロア自身は、気付いていないようですね。いろいろと……」
「まあその方がこっちとしては都合が良いのだけれど……」
「そうですね」
◇
「……みんな帰ってしまったようね。
クロアに話しかける事ができなかった……」
「エルク様の力があるなら、今は迂闊に近づかないほうが良いでしょう」
「それはそうだけど……」
「これで未来はどうなったのか……」
「……早速見てみるわ」
ビアは目を閉じ念じながら、瞑想をする。
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白☆未来予知
対象者一人の未来を視る。力が大きいほど長く先まで正確に見通せる。
正統な……しか使えない。
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「これは……」
「どうしました?」
ビアは慌てて、興奮気味に話し出した。
「大変だわ。至急、近隣の占い師を集めて、会議を開くわ。彼を止めるのよ」
「はい、承知いたしました」
◇
「……これは面白くなってきたな」