ドッグレース
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夜の薄暗い路地裏で二人の声が暗闇の中にひそひそと伝わる。
「クロアが喧嘩をしていた場所があそこよ」
ビアが暗い表情で言う。
「ああ、あそこだったんですね……。しかし残念でしたね」
青ローブ姿のロルドは少しがっがりそうに話した。
「そうですね。クロアには期待していたのですが」
「未来は確定ではないという……ことですかね」
「そうね、クロアに関しては、そういうことなのかも……」
「まあ終わった暗い話をしても運気が悪くなりますから……。
ところでこの辺りに何をしに来たんですか?」
ビアはロルドにカラフルな洋服を手渡した。
「すぐにこれに着替えて、潜入捜査よ」
「おわ、青以外の服を着るのは何か月ぶりかな」
「任務の時は仕方ないのよ、私も着替えなくては」
「割り切るしかないか」
「いい?一般人として乗り込むのよ、必ずフードを深くかぶって」
「バレたらまずいんですね?了解しました」
◇
入り組んだ路地裏の細い道に、二人は入り込んだ。
「まずは地下に向かう階段を探します。確かこの辺りにあるはずよ」
ロルドは辺りを隈なく見渡し、注意深く探した。
「見つけました」
視線の先には地下へと続く階段が続いていた。
「こいつは結構、闇が深い」
「中はいつもと同じで派手なはずよ、入り口だけ縁起が悪いわね」
「そうですね……」
「今日この時間、この地下で何かが起こるはず。でも何かはよくわからない」
「ビア様でもわからないとは……まさかあの……」
ロルドは核心には触れず、ビアもすぐに意図を汲んだ。
「そうかもしれないわね」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
地下に広がる広々とした空間。
いたるところに煌びやかな装飾が施されていた。
ここは夜のパーティ会場というのに、相応しい場所であった。
「今夜のドッグレースは見ものも見もの。なんと今日だけ!賞金がいつもの倍額だよ!」
きっちりとしたピカピカのスーツを着た男性が、大声でギャンブルを促す。
「さあみんな、賭けた賭けた!」
それを聞いた数十人の客は、各自予想を立てながら盛り上がっていた。
「なるほど、ここが噂の……」
町で聞いた情報を元にここに来てみたが……。
自分の能力も試せて、お金も手に入る。
ここは今の俺には中々うってつけの場所だな。
◇
「さあ、みんな賭けてくれ賭けてくれ!もうすぐ第二試合が始まるよ!」
「うああああああ」
試合が始まる前、人々の熱気と興奮が沸き、鳴りやまない歓声が響く。
これがこの世界の本物のギャンブルか?
しかしこんなところがあったとは……。なになに?
クロアはルールが書かれている看板を読んだ。
……なるほど。犬を走らせてその順位を予想して賭けるのか。
元の世界の競馬みたいなもんかな?
なんだか思っていた想像と違って、規模が可愛く思えるな。
「どれ、すこし賭けてみるかな……?ん?」
ふと近くにいた三人の男が気になり、クロアはばれないように柱の陰に隠れて会話を観察した。
三人はこの辺りでは見ない変わった格好をしていて、真ん中の男は妙なオーラを醸し出していた。
「オイ、ダレに賭ける?」
「俺は有り金全部だ」
「おいレイ、そんなことをしたら、もし外れた時……」
「今の運勢は俺に来てる、そんなことは絶対にない」
「ソウだな、レイはサッキも当たった」
「まあそうだけど、全額は……」
あの自信……真ん中の彼は占い師だろうか?
クロアは柱の陰から、レイをよく観察した。
あの胸に輝いているのは黄色のバッジ……!
◇
「はい。じゃあ僕はこの一番のラッキーに賭けます」
「おお、ありがとう。当たるといいねえ」
ピカピカのスーツを着た男性はニコリとした。
「ちょっと待ってくれ、お祈りをしないとな」
「ソウだな、ヤハリお祈りはヒツヨウダ」
そういうとレイは手を合わせ、目を閉じ瞑想をした。
能力を使う気か?なんの能力だ?今がチャンスだ。
クロアは凝視の能力を使い能力を見破る。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
黄☆セレクト
偶然の中から必然を選びだす能力。勝負事で使え、力があるほど正確にわかる。
正統な……しか使えない。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
なんだこの能力は……。
少なくとも中級の書物には載っていなかった能力だ。
だとすると、彼はおそらく上級の黄占い師ということか?
「よし、ではこの八番ハッピーちゃんに全額だ」
「ジャア、オレもそうする」
「まじかよ」
本当に全額かけやがった。
ここはもう少し様子を見て、次に賭けることにするか……。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「八番のハッピーちゃん。見事優勝です!」
実況者の興奮した声が、会場に鳴り響いた。
「やはりな」
「ヤッタ、レイすごい」
当てやがった、あんなチート能力ありか?
偶然の中から必然を選びだす……。
よくわからないけど、今回の場合一位がわかるってことだろ……?
お客たちは結果が決まり、最高の盛り上がりを見せていた。
そんな中、一際大きな声が観客の声を押しのけて響いた。
「ちょっと待て!」
「何事でしょうか?」
ピカピカのスーツを着た男性がピシッと身なりを整え、答えた。
「ここ、功国では賭け事は正式な認可が下りないと、禁止されているはずだが?」
「ああ、これはこれは神官様」
◇