再会の青お姉さん
てっとり早く占い師のスキルを高めたいな。
いくつかの書籍で学んで大体の知識は身に着けたし。
あとは実践だが……。
あの塔はあんなことした手前、行けるわけないからな。
この辺りでどっかになかったっけ……。
そう言えば……。
あることを思いついたクロアは、職業協会へと足を運んだ。
◇
「ここに来るのも久しぶりだな」
入り口を抜けると、相変わらずの派手な内装が目についた。
ここには占い師が集まってくる。
職を探す人は、占い師にとって良いお客なのだ。
どれどれ今ここにいる占い師は……。
◇
「あー!見つけたー!」
あ、青いお姉さんだ。
青いパーカーに青いジーンズ、青いキャップ。
やっぱり全身青コーデで決めていた。
やっぱそれどう見ても、占い師の恰好じゃないよ。
「……」
「さすがにひどいよ。私を捨ててビア様を取るなんて。私、あの後泣いてたんだから」
「すいません、どなたですか?」
とぼけた顔をするクロア。
「ちょ、それはないでしょ!いくら何でも私が人を見間違えたりしないよー」
手でツッコミを入れるリン。
「ナイスツッコミです」
◇
「すいません、リンさん。悪乗りが過ぎました」
「もう……悪い冗談はやめてよね。あれっ、でも何か変だな」
「あっ、わかります?」
「障害がなくなっている」
「そうですね」
「どうなってるの?」
そういうとリンは、クロアをまじまじと見つめた。
するとクロアも、リンをまじまじと見つめ返した。
「うわあ……すごい……ね」
◇
……青の能力を使ってリンさんを見たところ、どうやら力は断然こっちのほうが上らしい。
これはうまく話せば、色々なことが聞けそうだ。
「実はですね……」
こそこそと囁くように耳打ちする。
「えええ、すごいじゃん。じゃあ独学で占いを勉強したと?」
リンは驚きながら、声を大にして叫んだ。
「声が大きいですが。はい」
「どうやら見たところ、なかなかの力を持っているらしいね。
この短期間でどうやってこれほどまでに……?」
「ははは……運がよかったのかな……?」
不思議そうに首をかしげるリン。
「運勢もかなり良くなっているし……。
これなら正式な占い師にもすぐになれるんじゃない?」
少し興奮気味にリンは言った。
「そうかも知れませんね」
「くっそー、ここで思わぬライバル出現かー」
「まだ正式になると決まったわけでは……」
◇
「……そういえば白の能力のことなんですけど」
「白?」
「白の能力についてだけは本に載ってなかったんですよ」
「ああ、あれはシークスフィアに通っていないと教えてくれないかもね」
「情報が欲しいんですけど、何か知っていませんか?」
「教えてあげたいんだけどね……」
リンは少し俯いて話した。
「……お金ですか?」
「それも欲しいけどさ、あんまり他言できないんだよ」
口止めされるような内容なのか……?
「そこをなんとか、お願いします」
クロアは手のひらを合わせ、拝みながら言った。
「じゃあ、少し腕比べでもしてみない?」
「腕比べ?」
「勝負して勝ったら教えてあげる」
「わかりました。蛇の国のギャンブルですね?」
「そうそう、ってギャンブルとはちょっと違うよ。
……ってそういえば君は確か蛇国の辺境の出身だったね」
「……そうですね」
「うんうん、今じゃずいぶん垢抜けちゃってるけどね」
リンはクロアの縁起が良くなった格好を、じろじろ見ながら言った。
「ほっといてください、じゃあ何をするんですか」
「それはね、あっちで説明しよう」
そういうと二人は、職業協会の片隅のカラフルなソファに腰を掛けた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「じゃあ、早速始めようか」
そういうとリンは慣れた手つきで、カバンからカードを取り出し、
カラフルなテーブルにカードを広げ混ぜていく。
まるでマジシャンのような、流れるような速さだった。
クロアは少し見とれていた。
「どうしたの?」
「いや」
なるほど正式な占い師は、マジシャン顔負けのカードテクニックを持っているのか。
これは本ではわからなかったことだな……。
「ルールは簡単。カードの絵柄を言い当てるだけ。言わば占いの基礎だね」
「マジックじゃないんですよね?」
「手品じゃないよ、カードの中身を占うんだよ。イカサマしたらすぐにばれるよ?」
そう言いながら、リンはもう一押しとカードをシャッフルした。
「こりゃあ、青の人が断然有利ですね」
「そんなことはないよ。
青はその力でカードを見通せる。赤はその力でカードが出る運命に変えればいい。
黄はその力で運気を高めて出せばいい。どの色もみんな平等に能力を使えるんだよ」
「そういうもんなんですか……?」
「そういうもの。ところで君の素質は何色なんだい?蛇の国だから黄色かな?」
「そうですね……。黄色ですよ」
まあ、今はそういうことにしておこうか。
「やっぱりね。じゃあ先行はクロアからどうぞ、絵柄を宣言!そして開く!」
「はい、では……」
さて、どの能力を使おうかな?
まず気を静めて、どの能力を発動するか選ばないと……。
うーん、今回は黄色の能力を使ってみるか。
……これでいいかはわからないけど。
使う能力を頭の中で念じながら能力を発動する。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
黄☆カミングパワー
運を引き寄せる能力。勝負事で使え、力があるほど強く運を引き寄せる。
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えーっと答えを適当に言い放って……っと。
「絵柄は星!」
クロアがそう言ってカードを開くと、見事星のマークが現れた。
「おっ、あたりじゃん。じゃあ次は私だね。えーっと……」
おっと、この能力を使わなければ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
青☆凝視
対象者一人が発動している能力を見破る。力があるほど正確にわかる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リンさんの能力が頭に浮かんでくる……。
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青☆体感視
物などの感覚を、見ることで自分が感じ取れる。力があるほど正確にわかる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「これは……ごつごつした岩のマークだ!」
リンがカードを捲ると、岩のマークが現れた。
「あたりですね……じゃあ次は……」
こんなやり取りが数十分間続いた……。
◇
「負けたかー。一体どんな魔法を使ったんだい?」
「さあ、なんでしょうね?」
能力の試し打ちは上々だな。
「あー、なんか上から目線……。
私、中級占い師なのに……最近勉強を始めたばかりの人に負けるなんて……」
……リンさんは中級占い師か。
おそらく上級の青占い師であれば、俺のあの手は見透かされていただろう。
「あー……運が良かった。……のかなあ?」
「貴様、蛇の国の能力を使ったな?」
ちょっと渋い声を出すリン。
「ちょっとリンさん……いきなり俺を貴様呼ばわりは無いでしょ」
「ごめんごめん。ちょっと言ってみたかったもんで、つい……」
でもそういうノリ、嫌いじゃないよ。
◇
「あのー、そろそろ教えてもらえますか?」
「仕方ないな……約束は約束だから教えてあげよう」
「白の占い師はね、三つ素質を持つものがなれるの。
つまりバランス良く三つの素質を持っているってことだよ」
なるほど……。ということはビアさんはかなりやっかいだな……。
「そしてクロアが聞きたがっていた白の能力は、三つの属性の能力を持っている人しか得れない。
かなり貴重な能力なんだ」
薄々予想はしていたが……やはりそういうことか。
つまり俺はもちろん白の能力も使えるということか。
「そうだったんですね。通りで俺には使えないわけだ」
「そうだねー。でもいずれは使えるようになるかもね」
「……だといいですよね」
「あーあ、きっとこのままじゃクロアは私を超えていくんだろうなー。
成長速度が違いすぎるよー」
もう超えてますがね。
「もしそうなったらどうします?」
「そうだなー、コネを使ってお客を紹介してもらったり……。
優秀な先生を紹介してもらったり……。
高級なレストランでおごってもらったり……。」
「してもらうことばかりですね」
「だって、それ以外思いつかないんだもん」
リンさん、それは正直すぎる。
◇
「じゃあ俺はそろそろ……」
「次会うときは敵か味方か?」
リンはよくわからないポーズをして言った。
「何を言ってるんですか」
「いやなんとなくね、だって正式な占い師になってたらライバルだし……」
「ああ、そういうことですね」
「どちらにしても、もう私を優に越してるんだろうな」
リンはがっかりした表情で言った。
「しっかりしてくださいよ、リンさんだってまだ伸びしろ全然あると思いますよ?」
「本当に?」
「はい、今回はたまたま運が悪かっただけです」
リンはそれを聞くと、そのいらだちを隠せない表情で話し出した。
「その運が悪いとかいうのやめてくれる?
君は知らないかもだけど、運の良し悪しは占い師にとっては実力のうち。
運が良いイコール実力があるということなんだよ?」
なるほど。元の世界じゃよく使っていたが、ここでは禁句なのか。
「すいません。勉強不足で」
「わかればいいんだけど。
だからあんまりそういうことは言わないほうがいいよ」
「はい……」
「もしかしたら……。いやきっと、これからも実力は上がると思う。
その時に、そんなこと言われたら相手はすごく傷つくよ」
「ではなんて言えば?」
「そうだなあ……。ま、それは自分で考えて」
「それはなかなか難しいですね。貴重な助言ありがとうございました」
「でね、それでさあ……」
その後、クロアはリンとたわいもない雑談をして別れた。
◇
これでまた一歩前進かな。白の属性の謎も解けてきたし。
能力の実践もだんだんと出来てきた。