世界は占いに支配されている
三人は砂漠を越えて、組織の本拠地である光の塔へとやってきた。
「二人とも、乗り込む準備は万全ね?」
「まあ」
「大丈夫です、まずは手筈通りに……」
◇
三人は見張りに気付かれないように、物陰で小さな声で話していた。
「入り口付近には、青の占い師が配置されているわ」
「じゃあここは私に任せてください」
「よろしくね」
「何だか……つまらないな」
「何か言った?」
「いや」
想定通りというか?もうわかってるんですよね?
この後の流れを事前に聞いているし、未来が知れるというのは……。
何というか……消化試合だな。
◇
三人は塔の内部に侵入し、見張りをうまく掻い潜って進んでいた。
「何事もなく予定通りに進んでいますね、やはりビア様はすごいです」
塔の内部構造も、教えてもらった通りだもんな。
「でも予期せぬことは起きるものよ?私の能力も完全じゃないのだから」
「またまた、謙遜しちゃって」
ここまではどう見ても完全ですよ?
「相手にあの黒の能力の持ち主がいる以上、能力に絶対は無いってことは知ってるでしょ?」
「そうでしたね」
確かに俺はこの身をもってそれを経験してたんだよな……。
「それで……この通路を左に行けばあの人が……いるんですよね?」
「予定通り、ならばね」
じゃあ、いよいよ俺の出番がくるのか……。
◇
「あの人がリーダーで間違いないですよね?」
「どうやら、そうみたいだな」
話には聞いていたけど……能力で見ても、やはり相当な力があるみたいだな。
向こうもわかっていたんだよな。これまでの流れが、ミアちゃんの能力で。
でもそれすらもわかってしまう、こちらの能力のほうが一枚上手……か。
「……やはり隣にいるわね」
「予定通りでしたね」
「クロア、心の準備はいい?では指示通りに」
その掛け声を聞いたクロアは、リーダーの前に躍り出た。
◇
赤の姉妹を両隣に添えて、黒い衣装を着た組織のリーダーはクロアの前に姿を現した。
「こんにちは」
「やあ」
「あ、わかってました?」
「そうですね」
「それで、どうしますか?」
「いいや、この後の展開はわかっていますよ」
「じゃあ早速……」
一応俺の力を示しておかないとな、予定通りに。
クロアは黒い炎の能力を使用し、自身の周りに炎を豪快に放った。
その炎はクロアを守るように、柱のように燃え盛りその煌めきを保っていた。
「これね、今は力もコントロールも効くんですよ。俺のほうが上ですかね」
「確かにそのようですね」
その場で黒く燃え続ける炎。
赤の姉妹はそれをただ呆然と見つめていた。
◇
「こちらが抵抗しても、結局無駄なだけのようですね。
だから、せめて交渉しようと思ってます」
「いや、それも無駄ですよ?
俺も手荒な真似はしたくないんで、とっとと捕まってください」
それから少し間をおいて、組織のリーダーは突然声を荒げて話しだした。
「……能力だとか関係なくてさ、なんとなくわかるんだよ。
あの時と同じで……。でもそれを変えてみたくてさ」
「それでも変わらないこともありますよね。
どうしても変えられないことはある。俺もやっとわかってきましたよ」
「……何が言いたいんですか」
「この世界は、言ってみれば能力に支配されているんですよ。違いますか?」
俺一言一句、間違えないで言えないよ?
多分覚え間違えてるけど、ビアさんに大体で良いって言われてるし問題ないよね?
「まあ、そうかもしれないですね。上に立ってわかりましたよ。
でもこれから少しづつでも変わると思いますよ」
「なら連合がそれをこれからやっていくんじゃないですか?
……そもそもなんでこんな組織を立ち上げたんですか?」
「それは言えないな。未来にも言わない。
誰にも知られたくない。でも意味はあるよ。
君がここに来たことこそが未来に繋がるんだよ」
「なるほど、わかりました。俺が今こうしてここに立っている。
それ自体が何らかの意味を持つんですね」
「まあそういうことですよ。
自分なんか捨て石同然で、あの時にあんなことがなければ……」
「……そちらの事情はよく知りませんが、そろそろいいですか?
美女達を近くで待たせているので」
はたしてこのセリフは必要だったのだろうか。
「いいよ……。でも……せっかくだからさ、最後にさ比べてみない?」
「……?」
この展開は聞いてないぞ。
「本当に力が及ばないのかをさ」
「む、無駄だと思いますよ?」
「どうたら動揺しているようだね?」
「いや……?」
◇
「じゃあ始めようよ」
「くっ」
予定ではこのまますんなりと捕まってくれるはずだったんだが。
こうなったら能力を惜しみなく使うほかはないか。
その場では何も起きていないように見えた。
しかし二人の間では見えない能力による攻防が繰り広げられた。
青☆凝視を使いながら、相手の能力を見定める。
赤☆刹那を使ってその運命を変える。
場合によっては複合的に能力を使う。
「……なかなかやるね、さすがに普通の能力じゃ駄目なようだ。じゃあこれは?」
組織のリーダーは黒い炎を指先から、リズミカルに飛ばした。
クロアは冷静に白☆チェンジで、その能力を相殺して消滅させた。
「……あの、そろそろやめませんか?俺があの能力をもう一度使う前に」
「そしたら?またああなってしまうもんね?力がありすぎるのも困りもんだ」
「いや、そんなことはないですよ。俺はもう力をコントロールできるので」
「そうか」
「どうやらそちらは……。その様子ではできないようですね?」
「この能力は怒りの感情を呼び起こすことで力が増すらしいね」
「そうですね」
「思いっきり力を込めたら、どうなるかな?」
その時、隣に立っていた赤い姉妹がようやく声を上げ、二人の目の前に立ち塞がった。
「もう……いいと思います。それ以上は……」
「ミアちゃん……」
「もう当初の目的は達成したのでしょう?
これ以上は本当に意味が無いですよ。私の占いでもそう答えが出ています」
ミルさん……確かにそう、だよな……。
◇
「ふぅ……そうだね。やっぱりやめたよ。
君だけならともかく、君の後ろについている人達には適いそうにないしね。
無駄なことはやめよう」
組織のリーダーはそう言うと、少し悔しそうな顔をして俯いた。
一瞬想定外のことが起こって焦ったな。
これが未来予知の能力が、阻害されるということか。