悔しいなら力をつけることね
◇
「それで、一体ここで何をするんですか?」
「簡単なことよ、ただ単に自分の感情をコントロールできればいいの」
「なるほど。……で具体的には?」
「感情を高めて、それぞれに対応する能力を使うの。
その感覚を身に着けていけば、段々能力を自由に操れるようになるはずよ」
「でも能力の複数回の使用は危険なんじゃ?」
「だからまず最初はイメージトレーニングからね。
私が……。ここに持ってきたアイテムの力も借りながらよ。
それが出来るようになってきたら、威力を弱めて徐々に黒い炎を出す、
コントロールの練習を主にしましょう」
「感情を高めるねえ……前の時みたいに頭に思い浮かべればいいのかな。
例えば今までの怒りが募るシーンを思い出すとか」
「そういうことね。でもくれぐれも無理はしないでね?
体に不調や違和感を感じたらすぐにやめること」
「……言われなくても、そうするつもりですけど?」
◇
「そういや、元気にしてますか?」
「……誰の事?」
「俺が出会った人たち、かな」
「みんな変わらずに日々を過ごしていると思うわよ」
「そうか、元気なら良かった」
「珍しいわね?」
「いや、一応自分がしでかしたことなんでね。俺じゃないけど」
「なんだかクロア変わったわね?」
「そうかもですね、あの時……。一気に怒りの感情が失せたからかな。
元の世界に帰ってからは怒ることもなくなりましたよ」
「そう……それは良かった?」
「そりゃあ心の余裕が生まれたのでね……。でも人って怖いですよね」
「……誰の事を言っているの?」
「元大神官のことです。俺の推測が正しければあの人は……。
最初に会った時は何も考えていなかったけど、あの頃からすでにと思うと……。
そんなことを向こうでも考えてました」
「そう……。少なくてもその推測は当たっているかもね。
あれからいろいろなことが発覚したわ。……確かに人に言えないようなこともあった。
今は心が空っぽになったまま、牢屋に入れられているそうよ」
「その……死刑とかにはならないんですね」
「そんなものこの世界にはないもの。
というか今までそんな制度はなかったの。
これからはどうなるかわからないけど……」
「じゃあずっと牢屋に?」
「証明する手立てがないのよね。
いくら痕跡や証拠があったとしても……。
それが能力を使用したかどうか、誰のせいでそうなったのかがわからない」
「じゃあ……罪も償わない?」
「あんな状態になったことが罪滅ぼしだと思わない?」
「まあ、確かに……」
「能力の使い過ぎによるデメリットがあったから、まだ良かったのかもね?
……皮肉よね」
「…………」
◇
「向こうの世界での話、聞かせてくれる?」
「そうですね……。向こうの世界では、いつも通りに普通に暮らしてましたよ?」
「学校に行って?」
「はい、ああ知ってたんですよね……。確か、俺と過ごしていた未来があったって」
「そ、そうね……」
「そういえばちゃんと聞いたことなかったな、
最初に話した時も何だか言われるがままだった気がする」
「あの時は……私が上から目線で話していただけだものね……」
「……」
いや、それは今でもそうだよ?
「そうね、そんな未来も変わってしまったわけだけど……」
「だから、俺の本名も知っていたんですよね」
「そう」
その時の俺はどこまで話したんだろうな……?
「ちょうどこんな感じで修行を二人で行っていたわ。
だいぶ順序は変わってしまったけどね。
でもやっぱり、未来予知で視た通りになってる」
「確かそんな、変わらない運命を宿命っていうんでしたっけ?」
「そうね。運命が捻じれたり曲がったりしてもぶれない。
またその道を通る。言ってみれば確定する未来よ」
「確定か……」
「それはそうとシロンは元気でやっているかしら?確か同じクラスメイトなのよね?」
「え?それも知ってたんですっけ?」
「もちろんよ」
まあビアさんはシロンさんと仲良かったから、知っててもおかしくはないが……。
「その、未来の俺はどこまで話したんですか?」
「それはこれからわかるんじゃない?
だって順序が変わっただけで、今またその時が訪れているのだから」
「つまりこの先の展開がどうなるか知っているわけですね?恐ろしいな」
絶対話さないぞ、俺は。
「でもその通りに必ずしもなると限らないしね……?」
◇
「ビアさんは大きな運命のこと知ってますよね?
前みたいにならないといいってセレネさんとも話したんですけど、ビアさんはどう思いますか?」
「もうそれを知っているのね?……今の大神官が同じ過ちを?」
「はい」
「それはないわね」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「仮にも前の大神官の次ぐらいには実力があった人よ?
失敗を見て学ぶだろうし、今回は周りの人の目もたくさんある。
他にも思い当たる理由はいくらでもあるわ」
「でも可能性はゼロじゃないですよね?」
「確かにそうだけど……?……何?
また人のせいで自分が動いているとでも言いたいの?」
「いや、でも実際そうだったら嫌じゃないですか?」
「……それは自分が弱いからね」
「え?」
「厳しいことを言うけど、自分に力がないから大きな運命にまで動かされる」
「ま、まあ……?」
今日のビアさんは一段と厳しいな?
「悔しいなら力をつけることね、今の私たちにはそれしかできない」
「そう考えると……何もできない一般人はきついな」
「もう少し話したいことはあるけど……今は黙っておきましょう。
さあ、喋ってないで修行の再開よ」
「……」
その含みを持った言葉は、何なんだ。