白井先生と呼んでもいいですか?
「あの、白井さん。ちょっといいですか?」
「何?」
「能力についてなんだけど、話いいですか?」
「うん」
クロアは白井を人気のない場所に連れ出した。
◇
「俺の能力が使えなくなったんだけどさ」
「へえ……。どうしてだと思う?自分で考えてみた?」
「俺が私利私欲に使おうとしたからか?」
「それは人として良いのかどうか疑わしいけどね」
「確かにそうだけど……。じゃあデメリットの影響か?」
「そんなに能力を酷使したの?」
「いや一日に数回使用した程度だけど」
「それぐらいなら影響は出ないと思うし、原因はたぶんそれじゃないよ」
白井はクロアの体全体をやんわり見て言った。
「ん?」
「……薄っすらと見えているんだよね、黒い靄が」
「俺自身に?自分では全然気が付かなかった」
「そうだよ、体の周りに纏わりついてるね。黒いオーラみたいに。
でも治す方法はあるにはあるんだよ?」
「わかった……。白☆チェンジの能力ですね?
白井さんが俺にかけてくれれば、治るんじゃないですか?」
「……確かにそうかもね?」
「その顔はまさか……」
「どうしよっかなー」
「お、お願いします。白の神官、白井様」
「……私に何かメリットはあるのかな?」
「何でもご協力させていただきます」
「ねえ、知ってるよね?私に喜びの感情がないとチェンジの力は増えないんだよね。
力がないとクロアの能力は元に戻せないかもしれないよね?」
「喜びの感情……」
「私を喜ばすことができたら、考えてあげようかな」
白井さんが喜ぶ事とは一体何なのだろう。
……俺には想像もつかないな。
「…………」
クロアは遠くを見つめて考えた。
「表情が固まっているようだけど、何か思いついた?」
「どう考えてみても……物で喜ばす方法しか思いつかない」
何故だか今になって、一瞬ミルさんのことが頭をよぎったな。
予感の能力のせいだろうか?
そう言えばあれから……。何の話もせずにこの世界に帰ってしまったんだよな。
あの後ミルさんは、一体どうしたんだろうな……。
「そっか」
「…………」
以前のミルさんなら物で喜んでいたんだろうな……。
少ししか一緒にいなかったけど……。
まだ俺の中にはどうしても前のイメージのが強くてな。
協会側の人間であれは演技だったんだよな……。
「……どうしたの?私の話聞いてる?」
「いや、ちょっと考え事してた。何でもないし……頭では聞いてるつもりだけど」
「物じゃなくてね、気持ちで喜ばしてほしいかな……私は」
「それはなかなか難しい話ですね」
◇
「それで一体何をしたら喜ぶんですか?」
「それを考えて発表するのが、今クロアのすべきことだよ?」
「どうしても思いつかないんですよね。喜びね……。喜び。
喜びとは……いったい?」
「一体クロアはあの世界で何を学んできたの?」
「うっ……急に頭が」
「大丈夫?」
「いや、大丈夫。……それよりもあの世界で学んだことか」
なんだろう……。前よりももっと人が信じれなくなった気はするな。
思えば、俺はいいように使われていただけの気もする。
「白☆チェンジを使っていた白の神官達は……。
どのように人々に接していたかを思いだしてみなよ」
「……神官は人々に崇められていた。
それが自身の喜びへと繋がっていたということか」
「それも一つの例だね。実際その感情が力になると知っていたかは別として。
協会はそういうシステムを作り出していたんだよ。
感情を得てそれを能力の力へと変える……。それで世界は回っていたわけだよ」
「そうか、自分が知らないところでも……協会はうまく機能していたんだな」
「ってちょっと脱線してしまったけど、
私が言いたかったのはそういうことなんだよ?どういうことかわかった?」
「……つまり勉強と同じで、ちゃんと復習をしろということですね?」
「そう。よく、わかっている」
「白井先生と呼んでもいいですか?」
◇
「……少し考えて今やっとわかりました。俺が今為すべきことが」
「ようやくわかった?」
「つまり白井さんを喜ばすのは……俺のその……たった一言で良かったんですね」
「なるほど?」
「その一言を言える勇気を、俺はあの世界で学んだ気がします」
ここだけはエルク氏に感謝だな。
「そうなの?」
「やっぱ復習は大事ですね。じゃ……じゃあ恥ずかしいですけど言ってみます」
やはり予感の能力も、そう言っているか。
ここは……セリスさん、あの時の言葉を借りますね。
「あの、何か勘違いしてないかな?」
「え?白井さんこそ、何か勘違いしてません?」
「いや、この感じはどう考えても違うでしょ?」
「でも相手を喜ばせればいいんですよね?」
「いや、確かにそうは言ったけど」
「じゃあ黙って聞いていてくださいよ、俺の一言で喜ばせますから」
「……わかったよ」
「おれと……」
「……」