能力のデメリット
「じゃあ、私は十分満足したからこれで」
「いやいや、これで終わりってのは納得いきませんよ」
「そう……?」
「その能力、チート過ぎませんか?これじゃあ俺がどんなに頑張っても勝てませんよ」
「そうだね。確かにメリットだけ見ればチートだけど、どんな能力にもデメリットはあるんだよ?」
「デメリットについて何か知ってるんですか?」
「私も、向こうで無駄に時間を過ごしていたわけじゃないしね。
……クロアは知らなかったかもしれないけど、能力はその人の感情を力に変えているんだよ。
それが良い事なのか悪い事なのかはさておき。そして能力が強いほどデメリットも大きくなる」
黒と白以外の能力も、使用者の感情を吸い取って発動していたのか……。
「そうだったんですね……。
じゃあ、もし能力を使いすぎて感情をたくさん取られたら、人はどうなるんですかね?」
「感情がなくなったらどうなるかなんて、簡単にわかるでしょ?」
「えっ?」
「感情がなくなった時、人はロボットになるんだよ」
「……それじゃあ、向こうの世界の能力者たちはやがてみんなロボットみたいになるってことですか?」
「いや、使いすぎは良くないよってだけで。通常の使用の範囲内なら特に悪影響はないと思うよ?
実際向こうでそんな話を聞いたことはなかったしね」
「じゃあ例えば、強力な能力を酷使していたら人はどうなると思いますか?」
「それは……」
「ロボットみたいになるんですか?」
「それは冗談を交えてわかりやすくいっただけでね……。
真面目に考えると、本当にそうなった場合……。使いすぎたら感情をマイナスの値にされるってことでしょ?
例えば白☆チェンジの場合、どう頑張っても喜びを感じられなくなるわけだから……。
ずっとつまらなくなるとか、かな……?」
「難しい話ですね。どちらにしろ何か体に異常が出るってことですよね。
……何だか怖いですね」
大神官が仮にその状態になっていたんだとしたら……。
そう考えると、ああなってしまったのも納得がいくわけだが。
◇
「とにかくそんなに怖いことはないはずだよ。それにこれからは能力を使う機会もないでしょ?」
「そうですね、特にこの世界では」
「この世界ではね……」
「何だか話が途中で変わっちゃいましたね。
……今更計算しても意味ないですけど、33対48で白井さんの勝ちですね」
クロアは机に置かれているカードを見ながら言った。
「でもクロアも惜しかったよね。私も能力に頼って勝ったみたいなところはあるからね」
「あの世界風に言うと、運も能力も実力のうちだっけ」
「そうだったね……。
まあ可哀そうだからさ、私は満足できたから聞きたいことについては教えてあげるよ」
「本当に?じゃあ……白井さんは何故一人で帰ったんですか?」
「だって私の目的は果たしたからね。呼ばれた人の願いをさ」
「……つまりビアさんの願いか。それってどういう内容だったんですか?」
「簡単に言うとあの世界の平和かな。でももう叶えられたと思うし」
「それって一体?」
「その未来が、自分でわかったからね。その後の人々の行動や運命の流れもね。
あらかじめ先の展開が見えてたら面白くないじゃん?」
「でも未来は、運命は変わるんじゃ?」
「いや自分で色々と検証してみたんだけど、変わらなかったんだよ。
私の能力ではね。だから、自分の力でこの世界に帰ったというわけ。
クロアの護衛を途中で辞めて帰ったのは、悪かったと思ってるよ」
「……それじゃあさ、結局あの後あの世界はどうなった?
未来が見えていたなら、俺のしたこともわかってるんでしょ?」
「そうだね。クロアの黒い炎の能力であの世界は酷い有様になったと思うよ。
……でもそれで良かったんじゃないかな?
あの世界は一回リセットすることが必要だったんだよ」
「そうなのかなあ……?」
「そしてこれからは平和に向かっていく未来しか見えてないよ。
二つの組織は互いが寄り添いあったらしいしね」
「ということはつまり?」
「そうだね、協会と組織は統合されたってことだよ」
「そうなんだ。それなら……まあ良かったといえるのか?
でも、俺がやってしまったことの責任は感じてしまうな」
「でも向こうが勝手に呼び出しておいて、好き勝手にしたようなものなんだから。
そんなに気にしなくていいんじゃない?」
「そうは言ってもな」
「クロアも中々人が良いね?私たちはただ動かされていた駒にすぎないんだよ?
あの世界の事は忘れてさ、これからは普通に生きようよ」
「うーん……?」
「まあこの世界でも能力が使えるってことはさ……幸運でしょ?
私たちだけの秘密の力なんだし」
「そうだな……。そう思うしかないか」
確かにもうあちらに戻る事は出来ないだろうし、気にしていても仕方ないのかもしれない。
向こうの未来がこれから平和になっていくのであれば……。
俺のこの何とも言えない罪悪感も……その内消えるんだろうな。