でも断る
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「これは誰のせいだ」
「これは誰のせいだ」
クロアは叫びながら目を覚ました。
天井が白い……。
クロアはベッドで寝ていた。
夢を見ていたんだ……。
元の世界で学校に通っていた時に、理不尽なことがあったんだ。
俺はどうしたんだっけ。運が悪いことが立て続けに起きた。
記憶があいまいだけど……。
それで……。
「これは誰のせいだ」……って言い続けていたんだっけ。
そしたら、記憶が朧気だけど、この世界にいたんだよな……。
クロアの目は少し潤んだ。
しかし……ここは……どこだろう?
俺どうしたんだっけ。
クロアが辺りを見回すと、部屋は白で統一されいて清潔感があった。
内部は広く、家具も高級そうなものが置いてあった。
「お金持ちの家かな……」
◇
数回のノックの後、カチャッと音がして白い扉が開いた。
金髪の少女が近づいて来た。その立ち振る舞いには気品さが感じられた。
「起きましたか?」
「あ、あの……」
あの輝く白い衣装は着ていない。普通の白のワンピースだ。
でも俺には誰だかわかる。
「……も、もしかして神官様?」
「……そうですね」
「…………」
あんなに探していた神官様が目の前にいるのに……。何故かなかなか声が出ない。
「よく寝ていましたね」
「そ、そんなに寝ていましたか」
「はい、半日近くは」
俺、そんなに寝ていたんだ。
「……ずっと探していたんですよ、全然見つからなかったんですが」
「そうですか、私は忙しいですから」
ビアは淡々と答えた。
「……そうだ、俺の運勢を良くしてくださいよ。神官様ならできるんでしょう?」
「それはできません」
「……何故ですか?」
「私に用事があるならシークスフィア協会を通じて正式な申請をしてください。
そういう決まりなんです」
「そこを何とか……」
少しの沈黙の時間が流れた。
◇
ビアはクロアをじっと見つめて、神妙な面持ちで話し出した。
「あなた、何でもできる覚悟はある?」
「えっ?」
「いや、クロア」
「はい」
「いや……クロイ、ナツオくん」
「…………」
「私は知っているわ。あなたが別の世界から来たことを」
「……まじですか」
クロアは少し冷や汗をかいた。
「ええ」
ビアはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
いろいろな考えが今頭の中に浮かんできているけど。
これをそのままぶつけるしかないか……?
「……それなら話が早いです。俺を元の世界に……」
「聞けません」
「なぜ俺はこの世界に……?」
「聞けません」
「なんで俺が別の世界から来たと知っているのですか?」
「聞けません」
「俺は何も質問できないのですか?」
「聞けません」
また暫しの沈黙の時間が流れた。
◇
ビアは溜息をついてから、真剣な眼差しで話しだした。
「でも、こちらからは命令できます」
「そんな一方的な……」
「……ではクロア、あなたに命じます。私の護衛になりなさい」
ビアの見開かれた瞳には一寸の曇りも無かった。
クロアはその言葉の持つ、圧倒的な迫力に気圧された。
……断れない雰囲気だ。
ここで承諾しなければ、どんな酷い未来が待っているかもしれない。
事の重大さを理解しなければ……。
「……私の護衛になるでしょう?」
「嫌だといったら……?」
ビアは「はあ……」と溜息を吐き、肩を落とした。
「あなた自分の立場が分かってる?拒否権は無いに等しいわ。
頷いてくれるのなら、元の世界に戻してあげることも可能よ」
「えっ」
それはとてもありがたい。
でも……なんだか嫌な予感がする。ああ……なんかデジャブだ。
「でも、拒否権が無い訳ではないんですよね?」
「えっ……」
動揺して、あたふたしはじめるビア。
俺は昔から縛られるのが、大嫌いなんだよ……。
この動揺。裏に何かあるな……?
「あなたが私の護衛になってくれるなら、元の世界に戻してあげる事を必ず約束します。
さあ……返事を聞かせて?」
ビアは気を取り直して、再び真剣な面持ちで強い口調で言った。
よし、ここはとりあえず……。
「その話はお断りさせていただきます」
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ああ、クロア。どうしてあなたは私の誘いを断ったの?
私には未来が見えていたはずなのに。
私の見ていた未来は……。
護衛を承諾して、占い師の勉強をさせて、私の補佐をさせるつもりだったのに。
またあんな風に無理やりマグマの運勢を押し付けられて、体たらくな生活に戻ってしまうなんて。
「可哀そうなクロア」
やっぱりあれの所為なのかしら。
黒の素質。異世界から来た異質者。
いろいろとイリーガルな点が多すぎるわ……。
白い部屋の片隅で、目を閉じ思いを巡らすビア。
瞳を見開き、傍にかけられた写真立てに手をかけた。
そこには学生達の集合写真が写っていた。
ビアはふと、その写真の笑顔の男性に目を留めた。
……私はエルクの誘いを断った。
それがここまでの火種を産むとは思わなかったわ。
「自分が蒔いた種……か……」
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