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32 ソレイユとナイト

 食事を終えて屋台をあとにするわたしたち。

 ナイトくんとは当たり前のように手を繋ぐようになっていた。


「次はなにをして遊ぶ? あ、そうだ、次は見世物小屋に行ってみようぜ。帝都から大道芸人が来てるらしい」


「ホントに? わたし、大道芸って見たことないの! 行きたい行きたい! ……ああっ!?」


 わたしたちは屋台の建ち並ぶ大通りを歩いてたんだけど、急に背後から強い風が吹いてきてわたしの帽子をさらっていった。

 帽子は木の高さくらいまで舞い上がりながら、通りの奥のほうに向かって流されていく。


「ああ……! あの帽子、お気に入りだったのに……!」


「待ってろ!」


 ナイトくんはほとんど脊髄反射のような速さで走り出していた。

 しかし大通りはお祭りを楽しむ人でいっぱい。しかもお酒を飲みながらフラフラ歩いている人たちがたくさんいる。

 ナイトくんは大きな身体に似合わない俊敏性でその人たちを避けて進んでいたけど、ぶつかってお酒をぶちまけていた。


「おっと、危ねぇだろ!?」「おい、なにしやがる!?」「せっかくいい気分で飲んでたってのによ!」「酒が台無しじゃねぇか!」


「すまん! これで新しいのを買ってくれ!」


 酔っ払いにぶつかるたび、ナイトくんはポケットからコインを取り出し、指ではじいて投げていた。


「わあっ!?」


 大柄なナイトくんが走ってくるのにビックリして、小さな子供が手にしていた風船を放していた。

 ナイトくんはジャンプ一番、驚異的な跳躍力で風船をキャッチする。


「ほら、ちゃんと持っとけよ!」「あ……ありがとう、お兄ちゃん!」


 風船を子供に返したナイトくんは踵を返し、ふたたび走りだす。

 とうとう帽子に追ついたんだけど、帽子の高度も少しずつ下がってきていた。


 しかし大通りの先は大きな池になっていて、このままだと帽子が池に着水しそう。

 それでもナイトくんはまわりが見えていないイノシシのように猪突猛進。わたしは通りを貫くほどの大声で叫んだ。


「ナイトくぅーーーーん! もういいよーーーーっ! もういいからーーーーっ! このまま行くと、池にーーーっ!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ナイトくんは近くに詰まれていた木箱を階段のように駆け上がる。

 その途中で木の枝の上にいた、下りられなくなった猫をガッと抱え上げつつ、そのまま裂帛の雄叫びとともに最上段の木箱を蹴った。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 ……ガッ……!


 と掴んだ音が聞こえてきそうなほどの、気合いの込もったキャッチ。


「す……すごっ!?」


 しかしナイトくんは飛んだあとのことは考えていなかったのか、空中でわたわたしていた。


「うわっ!? うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ナイトくんは猫に顔を引っ掻かれながら落下、池の手前にある茂みに突っ込んでしまう。


「な……ナイトくぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」


 わたしは大急ぎでナイトくんの落ちた茂みに走り寄る。

 ぷはっ、とヤブを破ってでてきた彼は、なかなかに酷い有様だった。

 髪は葉っぱとクモの巣まみれ、顔はひっかき傷まみれ、服はお酒と猫の毛まみれ。


「だ……大丈夫!?」


「ああ、俺なら平気さ」


 ナイトくんはわんぱく坊主のようにニカッと笑いながら、わたしの頭に帽子を被せてくれる。

 そしてその上から、頭をポンポンしてくれた。


「大事なもんなんだったら、しっかり被っとかなきゃな」


「あの……どうしてそんなに?」


「ん?」


「どうしてそんなに一生懸命になって取り戻してくれたの? 帽子は大事なものだけど、そこまでしてくれなくても……」


「どうしてって、そりゃ……」


 ナイトくんの顔から、笑顔が消えた。


「お前のことが好きだからだよ」


 わたしは「え?」と言おうとしたけど、驚きのあまり声にならない。


「厩舎で最初見た時は、へんなヤツだなと思ってた。でもどうせコイツも他の婚約者と同じだろう、って思った」


「でも、お前は他のヤツらとは違った」その言葉には熱があった。


「俺はリオと幼なじみだから、リオのこれまでの婚約者はぜんぶ見てきた。ソイツらは決まって最初は俺に言い寄るんだ、将来有望だからって。まるでキープするみたいにな。でもリオの婚約者に選ばれた途端、俺が部下になったみたいな態度であれこれ命令してくるんだ。でもお前は俺が、将来リオの部下になる男だってわかっても、態度が変わらなかった」


「それで、わたしのことを……?」


「それだけじゃねぇよ。スーホを世話したいと言いだした時は、すぐ投げ出すだろうと思ってた。でもお前はスーホにからかわれても蹴られても、スーホの世話を続けた。そして認められた、ソリタリオにしか心を許さなかったスーホに」


「正直すげぇ、って思ったよ」その言葉にはさらなる熱がこもっていた。


「お前はいつもそうだった。実力テストのときも、この前の決闘の時も、リオのために一生懸命になって……」


 それまで溜め込んできた気持を吐き出すように、腹から声を出すナイトくん。


「でもどんなにがんばったところで、お前は婚約破棄されるんだぞ! それなのに毎回毎回ボロボロになるまでがんばるなんて……! こんなにがんばってるのに、なにひとつ報われないまま婚約破棄されて……! 悲しんでるお前の姿なんて、見たくねぇんだよ!」


 その声の大きさに、通りすがりの人たちも何事かと立ち止まっていた。

 でもナイトくんはおかまいなしだった。


「俺はリオみたいにスマートにはやれねぇ! いつも体当たり、いつも汗まみれ、いつも泥だらけだ! でも、なにがあっても……がんばるお前をぜったいに、幸せにしてみせるっ!」


 ナイトくんは真剣な表情。拳を胸に当てるその姿は、騎士の誓いのようだった。


「お前こそが、俺の姫君……! お前のためなら、この心臓だって捧げるぜ……!」


「おっ……おおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

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