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21 ありのままの娘

 疲れ切った身体を引きずるようにして校門をくぐるソレイユ。

 馬車を降りて校舎へと向かう生徒たちでキャンパスは賑わっていたのだが、ソレイユが現われた途端に各所でひそひそ話がはじまった。


「ねぇ見て、ソレイユ様よ」


「ホントだ、でもかなりのお疲れのようね?」


「ふん、きっと激しい一夜を過ごした風に見せたいんでしょ」


「ああ、そういうことか。もう王子はあたしのものだから、横取りしようったってムダだってまわりを牽制してるのね」


「そうそう。いままでの婚約者だってキスマークを偽造してたでしょ。妊娠をでっちあげた子もいたわよね」


「あ、そういえば、あの噂聞いた? 王子の前婚約者のロップさんのこと」


「まさかロップさんが悪女だったなんてねぇ」


「あたしたちは知ってて乗っかってたしょーが。って、そうじゃなくてロップさん、転校するそうよ」


「そりゃダンスパーティで派手にやらかしたんだから、もうこの学園にはいられないでしょ」


「そうじゃなくて、彼女は山奥にある病院に送られるんですって」


「えっ、なんで?」


「彼女、すべては王子が仕組んだことだって喚き散らしてるらしいわ。王子は未来を操ることができる悪魔だ、って」


「ええっ、なにそれ? 完全にイッちゃってるじゃん。そりゃ病院送りにもなるわ」


「その病院って監獄みたいなところで、一度入ったらなかなか出てこられないそうよ」


「うわぁ、ロップさん、終わったね……」


「しかもロップさんが病院送りになった裏には、ソレイユさんが糸を引いてたって噂があるの」


「えっ、マジで!?」


「うん、ロップさんってダンスパーティの時、蛇蝎の腕輪をソレイユさんにプレゼントしてたでしょ? ソレイユさんはそのお返しに、王子の権力を使ってロップさんが悪女であることをバラしたそうよ」


「ええっ、それじゃあたしたちもヤバいんじゃ……うわあっ!?」


「おはよーっ! 素晴らしい朝だね! なに話してたの?」


「おっ……おおお、おはようございます! ソレイユ様!」


「ご、ごごっ、ごきげんうるわしゅう……!」


「もう、そんなにかしこまらなくてもいいって! だってわたしたち、友達じゃない!」


「「へっ?」」


「腕輪、ありがとう! あなたたちがくれた腕輪のおかげで、サイコーの思い出ができちゃった!」


 ソレイユはヒマワリのような笑顔をふたりの少女に向ける。

 しかしその屈託のなさすぎる笑顔はかえって不気味で、少女たちからは地獄に咲くヒマワリのように見えていた。


「そ……そんな……!」「あ……あの……!」


「そうだ! なにかお返し(・・・)をさせて! ふたりには、なにが似合うかな?」


「や……やめ……!」「け……結構で……!」


「そんなに遠慮しなくていいの! お返しをしないと、わたしの気がすまないから!」


「そ……それだけは……!」「病院送りだけは……許して……!」


「病院? なにを言ってるの? あ、そうそう、病院といえば子供の頃、家で寝たはずなのに起きたら病院のベッドだったってことがあったの! ふたりはそんな経験……」


「ま……まさか……!」「寝てる間に私たちを……!?」


「「た……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」


 予鈴のチャイムと、断末魔のような絶叫がキャンパスにこだまする。


 こけつまろびつ逃げ去っていくふたりの少女。

 その背中を「?」と小首をかしげて見送るソレイユ。


 彼女は知らない。

 この噂はたちまち広まり、彼女にプレゼントを送った少女たちがしばらくの間、眠れぬ夜を過ごすことになるのを。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 わたしと話していた子たちは、チャイムが鳴ると死にそうな顔で校舎に駆け込んでいった。


「あの子たち、そうとう勉強が好きなのね……わたしもがんばらなくっちゃ!」


 わたしはウキウキ気分をやる気に変えつつ、愛しのソリタリオ王子の待つ『1-S』のクラスへと向かう。

 最初はホームルームだったんだけど、そこで新しいお友達の紹介があった。


「レットイット・ゴー・バイオレットさんなのである。彼女はご家族の仕事の関係で、入学式に参加できなかったのである」


 新しくクラスに入ってきたレットイットさんは、目の覚めるような美女だった。

 紫色のロングヘアと瞳はシックでゴージャス。すらっとしたプロポーションはモデルさんみたい。

 みんなと同じ制服なのに、彼女が着ているだけで高級ブランドの服に見える。


「ねぇねぇ、見てください王子、すっごいキレイな人ですよ」


 わたしは隣の席の王子に話を振る。しかし王子はレットイットさんを見ようともしていない。

 頬杖を付いたまま、窓の外を眺めていた。


「知ってるよ」


「知ってるって、レットイットさんって有名人なんですか? あ、有名な貴族のお嬢さんとか?」


「バイオレット商会を知らないの?」


「なんですそれ?」


 その答えはわたしの頭上から降ってきた。


「知らないのも無理はないわね。我がバイオレット商会はカンパーニュ領には商店を出してないの」


 教壇にいたレットイットさんはいつの間にか挨拶を終え、わたしと王子の背後に移動していた。


「あんなド田舎に出店したら、バイオレット商会のブランドに傷が付きますもの」


 レットイットさんはさらりとわたしの田舎をディスりながら、ぐいぐいとわたしと王子の間に割り込んできて着席する。


「ちょ、なにするの、レットイットさん!?」


「なにって、ここは私の席よ」


「なに言ってるの!? 王子の隣は婚約者のわたしが座るの!」


「誰がそんなことを決めたの? 王族の婚約者は同じクラスに編入されるっていう校則はあるけど、席が隣同士になるっていう校則はないわよ」


「そ……そうなの!? で、でもこれは王子が望んだことで……!」


「僕はべつに望んでないけど」


「そんな……!?」


「ソレイユさん、うるさいのである! もう授業は始まっているのである! 次に無駄なおしゃべりをしたら減点するのである!」


 突如として現われ、わたしと王子の間に割って入ってきたレットイットさん。

 彼女は学園にいる間ずっと王子につきまとい、あろうことか寄り添ったりしていた。


 わ……わたしですらしたことないのに!


 休み時間の廊下、その真ん中を歩く王子とレットイットさん。

 三歩下がった位置から、ぐぎぎ……! と歯ぎしりをしながらついていくわたし。

 他の生徒たちは、みな夢見るような表情をしながら道を開けていた。


「見て、あのふたり……!」


「うわぁ、素敵……! まるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様みたい!」


「おふたりとも、美しくて背が高くて……まさにお似合いのカップルね!」

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