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10 はじめてのクラス

 お披露目という名の初登校を終え、学園の門をくぐったわたし。

 さっさとソリタリオ王子と別れ、いかり肩で校舎の廊下を歩いていた。


 そうだ、そうなんだ。

 王子がカッコ良すぎてついつい忘れちゃうけど、忘れちゃダメなんだ。


 わたしは王子の婚約者だけど、王子はわたしのことなんかなんとも思ってない。

 からかってイジメるためのオモチャが欲しくて婚約したに過ぎない。


 そんなことをして喜ぶなんて悪趣味というか、完全に頭のネジが外れているとしか思えない。

 やっぱり王子は、ドSの悪魔なんだ……!


 わたしは心は砂漠のように荒んでいた。いまのわたしにとって、見上げたクラスの表札こそが唯一のアオシスだった。

『1-F』、ここがわたしの新しい居場所だ。


 王立ヴェルソ学園は各学年、SからFまでの7つのクラスに分けられている。

 これは単純に成績の順なんだけど、わたしは最低のFクラスとなってしまった。


 というか、いっしょに入学した田舎の友達もみんなFクラス。

 どうやら都会と田舎では学力にかなりの差があるらしい。


 ちなみに入学式の一件以来、田舎の友達とは一度も会っていない。バタバタしてて、会いたくても会えなかった。

 だからみんなとは1週間振り。これから中学の時のような楽しい学園生活が待っていると思うと、自然と足どりも軽くなる。


「あの悪魔王子もいないし、学園にいる時くらいは羽根を伸ばさないとね!」


 わたしはスキップする勢いで教室に入ろうとしたんだけど、寸前で襟首を掴まれてしまう。

 振り返ると、そこにいたのは七三分けにチョビヒゲ、太っちょの身体をスーツで包んだ中年の先生だった。


「キミはソリタリオくんの婚約者の、ソレイユくんであるな?」


「はい、そうですけど……?」


「まさか王子の婚約者がおバカクラスとは、やはりあの王子は人を見る目が無いのである。この国はお先真っ暗なのである」


「な、なんですか、それっ!?」


「ともかく、キミのクラスはここではないのである。我輩といっしょに来るのである」


 わたしは子猫のように襟首を掴まれたまま、先生の手によって廊下を引きずり戻される。

 遠ざかっていくオアシスにわぁわぁ叫んでいたけど、ふとナイトくんとすれ違う。

 ナイトくんはわたしを見るなり、そばに寄ってきて耳打ちしてきた。


「この学園の先生たちはみな、リオのチョイスでほとんどが反体制派のヤツらだ。俺はクラスが違うから、もしリオになにかあったら守ってやってほしい」


「え……それってどういう……?」


 その意味はすぐにわかった。

 わたしが引きずりこまれたクラスはなんと『1-S』。天才たちが集う天上界のようなクラスだった。


 教室は扇状をしていて、扇の根元のあたりに教壇がある。

 生徒の座席は階段状になっていて、成績優秀者が上のほうに座るというシステムになっていた。


 ソリタリオ王子は頂上の窓際の席にいたんだけど、わたしはその隣に座らされる。

 王子の顔なんてしばらく見たくないと思ったけど、窓辺で脚を組んで座るその姿は眼福なほどに絵になっていた。

 同時にわたしはよその家にきた猫みたいに不安でたまらなかったので、つい王子にすがってしまう。


「あ……あの……これって、どういう……?」


「この学園には、王族の婚約者は同じクラスに編入されるっていう決まりがあるみたいだね」


「そ、そうなの? だったら、王子がFクラスに来れば……」


「あんなバカクラスに入ったら脳が溶けるよ」


 遠回しにわたしの脳が溶けてるみたいに言われてちょっとイラッとくる。


「だったらあなたの脳は、あずきバーみたいにカッチカチで……!」


「そこ、おしゃべりはダメなのである! 我輩は王族であろうともビシビシいくのである!」


 わたしの反撃は、担任の先生のスパルタ宣言によって潰えてしまう。

 このクラスの担任はライス先生といって、担当科目は雷撃魔術だそうだ。

 ライス先生は自分の紹介を終えると、魔術の短杖をムチのようにピシピシ手に打ち付けながら言った。


「それじゃあ次は、みんなにも自己紹介をしてもらうのである。でもそれだけでは面白くないので、ついでに魔術の腕前を披露してもらうのである」


 先生が杖先で示したのは、ステージのように広い教壇の隅にある避雷針。


「これは、雷撃魔術のテスト装置なのである。ひとりずつ前に出て、自己紹介したあとにこの装置に『サングレロ』を放つのである」


 サングレロ……基本ともいえる雷撃魔術のことだ。


「この装置にサングレロが当たると、パワー値が浮かび上がるのである。高いほど威力が高いということなのであるが、せっかくなので出た数値を今学期の成績に加味してあげるのである」


 先生は言葉を区切り、「ふむぅ」と一考するような素振りを見せる。


「我輩のサングレロの最高記録が1000パワーちょっとくらいであるから、500パワーを超えた生徒は1パワーごとに1点プラスしてあげるのである。ただし500パワー以下の場合はそのぶんマイナスするのである」


 成績がプラスされると聞いて生徒たちは喜んでいたが、マイナスの要素が出た途端「ええーっ」と抗議の声をあげていた。

 ソリタリオ王子は無反応。机に頬杖をついたまま窓の外を眺めている。


 これってもしかして、チャンスなんじゃ……?


 わたしは勉強は苦手だけど、魔術はわりと得意だったりする。

 前世の中学ではポン・コツ子なんて呼ばれるくらいだったけど、今世の中学における魔術の成績は上から数えたほうが早いほどだった。


 そういえば、こんな話を聞いたことがある。剣術が得意な人、つまり肉体派の人ほど魔術が苦手だって。

 わたしは横目で、窓辺のマーガレットをチロリと見やる。


 王子があれほどの剣の腕前なら、きっと魔術はてんでダメに違いない……!

 見返せる……! これまでのツケを、いっぺんに返せるかも……!?


 わたしの頭の中ではすでに、跪いて許しを乞う王子の姿があった。


『すごい、ソレイユ……! なんてパワーなんだ……! どうかいままでのことは水に流して、僕に魔術を教えてほしい!』


 なんて妄想をしているうちに、テストを兼ねた自己紹介が始まった。

 一番前にいた男子生徒が席から立ち上がり、教壇にあがる。

 その男子生徒は名前や出身中学を語ったあと、教卓に並べてあった複数の杖の中から長杖を選んでいた。

 杖は魔術における補助装置のようなもので、持っていると命中率や威力を底上げする効果がある。

 今回は、好きな杖を使っていいというルールのようだった。


 男子生徒は避雷針のほうを向くと、長杖をかざして勇ましく叫ぶ。


「……サングレロ!」


 教壇じゅうに青い閃光が迸り、空間を裂くような稲光が天井から落ちる。

 光は導かれるように避雷針に着弾、爆音で教室じゅうをビリビリと震わせていた。


 そのすさまじい威力にわたしは立ちあがるほどにビックリしていたけど、他のみんなは無反応。

 避雷針には、『485』という数字が浮かび上がっている。

 男子生徒は悔しそうに舌打ちし、ライス先生はコロコロ笑っていた。


「ざんねんなのである! 15点減点なのである! では、次!」


 わたしは開いた口が塞がらなくなっていた。


 あ……あんなにすごい雷撃魔術、初めて見た!

 レベチすぎない!? 中学のときの先生よりすごいんだけど!?


 わたしはいまさらながらに、ここが天才クラスなのだと思い知る。

 繰り出される雷撃魔術はどれもすさまじく、わたしは衝撃の連続のあまり、カミナリを怖がる子供みたいに耳を塞いで震えあがっていた。


 ど……どうしよう……!? このままじゃ、大変なことになっちゃう……!


 わたしは助けを求めるようにソリタリオ王子をチラチラ見てるんだけど、王子はずっとガン無視だった。

 そしてとうとう、わたしの番がやってくる。


 わたしは売られる子牛のような気分で席を立ち、逆死刑囚のように階段を降りる。

 教壇にあがったわたしの顔はたぶん真っ青で、自己紹介でなにを言ったのか自分でもわからなかった。


 追いつめられて逃げ場のないわたしは、ままよ! とばかりに避雷針に向かって叫んだ。


「さ……サングレローぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!」


 すると避雷針の頂点でパチッと青白い光が弾け、『2』という数字が死にかけの蚊のように浮かび上がった。

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