とは言え
長坂釣閑斎「少し良いかな?」
高坂昌信「お願いします。」
長坂釣閑斎「小浜の実績は聞いている。彼の持つ水軍の陣容もこの目で見た。徳川に水軍が無い事を考えれば、舟戦で小浜が徳川に後れを取る事はあり得ないのは重々承知している。」
高坂昌信「はい。」
長坂釣閑斎「しかしその事が即伊奈城攻略に繋がるとは思えぬ。山県の話を聞く限り、陸路で伊奈城へ攻め込む事は?」
山県昌景「多大な犠牲を以てしても難しいと考えています。」
長坂釣閑斎「小浜に周囲を干上がらせ、深田と湿原を乾いた大地に変える術は?」
山県昌景「持ち合わせていません。」
長坂釣閑斎「城周りにある堀の水位は?」
山県昌景「溢れんばかりの水が湛えられてはいますが、底の深さまではわかりません。」
長坂釣閑斎「仮にだ。仮に。の話である。」
山県昌景「はい。」
長坂釣閑斎「堀が深かったとしよう。船の通航が可能であったとしよう。その時、安宅船が入る事は出来るか?堀に通じる佐奈川を通る事は可能か?」
山県昌景「安宅船は不可能であります。関船につきましても機動力を考えた場合難しいと考えます。」
長坂釣閑斎「つまり使えるのは小早だけ?」
山県昌景「そう見て間違いありません。」
長坂釣閑斎「よしんば伊奈城周りに船が入る事が出来たとしよう。そこから城に入るためには?」
山県昌景「馬出に上陸するほかありません。」
長坂釣閑斎「堀の内側に巨大な壁が巡らされていると聞いた。」
山県昌景「はい。」
長坂釣閑斎「船から攻撃する事は?」
山県昌景「出来ません。」
長坂釣閑斎「逆はどうだ?もし中から外へ攻撃する事が出来ないのであれば、船を使って被害を出さず城に迫る事も可能になるが如何であろうか?」
山県昌景「申し訳御座いません。中の構造まで確認する事は出来ていません。」
長坂釣閑斎「やって見る価値は?」
山県昌景「あります。しかし船について我らは素人。全てを水軍衆に委ねなければなりませんし、元々からの家臣ではありません。ましてや小浜は三顧の礼で迎え入れています。仮にこちらの間違いにより、彼らを窮地に陥らせてしまった場合。二度と我らの願いを聞き入れていただく事は出来なくなるでありましょう。危険な賭けに巻き込むわけにはいきません。」
長坂釣閑斎「それでは小浜を以てしても伊奈城を落とす事は出来ない?」
山県昌景「現状、その通りであります。」
長坂釣閑斎「それならば小浜を回す意味は無かろう。お金も掛かるし、其方も道中の安全を担保しなければならないのだぞ。」
高坂昌信「長坂様。」




