疲弊
長沢に派遣された自身の部下からの報告に目を通す高坂昌信。
高坂昌信「殿。」
私(武田勝頼)「どうした?」
高坂昌信「『信綱が疲弊している。』
と記されています。」
私(武田勝頼)「信康を追い返す事に成功したのでは無いのか?」
高坂昌信「はい。
『信康。岡崎へ去る。』
と記されています。」
私(武田勝頼)「激戦であった。と解釈すれば良いのでは無いのか?」
高坂昌信「はい。しかし気になる事があります。」
私(武田勝頼)「と言うと?」
高坂昌信「普通。敵を追い返したのであれば
『御味方大勝利。』
と声高に喧伝するのが常であります。」
私(武田勝頼)「そうだな。」
高坂昌信「たとえいくさで苦労したとしましても、結果。敵を追い返す事が出来たのは事実でありますので。」
私(武田勝頼)「本来の目的を達成する事が出来ているのであるからな。」
高坂昌信「はい。それに送り先は私。直接の上司であり、事いくさについては彼らの方が上手であります。多少盛って来ましたり、嘘とまでは言いませんが。私に見破られる事を前提に、大袈裟な文書を認めて来るのが常である連中であります。」
私(武田勝頼)「大変だな。」
高坂昌信「普段。私も同じ場所にいますので。」
私(武田勝頼)「その高坂の部下が今回。いつものようなふざけた部分が一切ない報告書を送って来た?」
高坂昌信「はい。」
武藤喜兵衛「しかし現地に高坂様が居ないからではありませんか?」
高坂昌信「いや。倅が指揮を採った時なんか酷いぞ。あいつら。」
武藤喜兵衛「昌澄様を貶めるような文言でも?」
高坂昌信「いや。あいつも一緒になって報告して来るから厄介なんだよ。どこまでが事実で、どこからがおふざけなのか試して来る時がある。」
武藤喜兵衛「今回は信綱様であります故。」
高坂昌信「奴らと信綱は普段からの関係性があるので。」
武藤喜兵衛「より巧妙な罠を仕掛けて来る?」
高坂昌信「尤もこっちが見破る事が出来るようにはして来るけどな。」
武藤喜兵衛「そんな高坂様の家臣が今回。一言も
『勝った。』
とは書かないばかりか、信綱様の苦境を伝えて来た?」
山県昌景「それも含めてお前を試しているのでは無いのか?」
高坂昌信「いや。奴らは否定的な事で盛る連中では無い。」
私(武田勝頼)「となると信綱に問題が発生している可能性が高い?」
高坂昌信「間違いありません。」
私(武田勝頼)「いくさに敗れた危険性も?」
高坂昌信「わかりません。ただ信康が岡崎に戻った事は確かであります。すみません。長沢へ向かいます。」
私(武田勝頼)「頼む。」