時期尚早
内藤昌豊「だからと言って即裏切りの誘いに乗るとも思えませぬ。岡崎の衆は実務に携わる者共。
『収入を増やしたい。』
と考えるのであれば、いくさのある浜松行きを志願するでしょう。家康としても人手が足りていないのが実情でありましょうから。」
私(武田勝頼)「自分の命を賭けてまで収入を増やす必要を感じていない?」
内藤昌豊「はい。そのような者共が、敵方の兵を引き入れる事に同意するとは思えませぬ。厚い恩賞に与る事が出来るのは武田家中の者になります。地位も同様。彼らの順番はその後になります。今の地位と収入は保障されるとは思いますが、条件の良い仕事に就く事が出来るか定かではありません。徳川と武田では規則も異なりますし、後方支援に携わる事が出来る人材は武田にも存在します。その事を知らず。大岡の言葉に乗ってしまった可能性も否定する事は出来ません。」
高坂昌信「箝口令が敷かれているとは思われますが、勤め先を変える。それも勤め先が無くなる形で。しかも自らが加担する事によって。であります。彼らは基本、実家に住んでいます。大岡から好条件を提示されているのは間違いありませんが、裏書きとなる物が彼には存在しません。不安に思う者の方が多いと見て間違いありません。故に口止めをされているとは思われますが。」
馬場信春「身内に相談する者が出ても不思議な事では無いな。」
高坂昌信「仰せの通り。」
山県昌景「大岡に自重を促した方が無難……。」
馬場信春「勿論、大岡の筋書き通りに進めば大きな成果を上げる事が出来る。それは間違いない。ただ現状を見る限り、実現の可能性は低い。勿論ここまでの繋がりを築いた事が否定される事では無い。」
山県昌景「勿体ないお言葉。」
馬場信春「大岡には『時期が来るまで目立った行動はしないように。』と。」
山県昌景「わかりました。」
馬場信春「ただ山県の働きを実現させなければなりません。殿の意見は。」
私(武田勝頼)「馬場と同じ考えである。」
馬場信春「となると大岡の考えを岡崎の世論にしなければなりません。そのために必要なのは……。」
徳川家康の権威を失墜させる事。
馬場信春「であります。」
高坂昌信「岡崎は西を織田領に守られていますので、可能であれば信長も。そのためには信長を誘き寄せた上、信長を叩く必要があります。」
内藤昌豊「そこまでしなくても良いだろう。信長も家康も手出し出来ずに三河の城を落とせば良いのでは無いか?」
馬場信春「山県。」
山県昌景「はい。」
馬場信春「三河の中で、落とす価値のある城は無いか?」