気になる事
高坂昌信「越前について1つ気になる事があります。」
私(武田勝頼)「お願いします。」
高坂昌信「これまで私は越後と越中の一向宗と関わりを持ってきました。加えて長島の一向宗についても話を聞いて来ました。その中で感じたのは彼らが持つ結束力。どのような不利な状況に追い込まれても諦めることの無い彼らの行いに感嘆すると同時に畏怖の念を覚えたものであります。故に信長は長島を殲滅し、信雄が越前を撫で斬りに奔らせたものと考えています。」
馬場信春「私も同じ意見である。」
高坂昌信「そう考えました場合、越前がわずか1日で瓦解してしまったのが不思議でなりません。確かに織田は大兵であります。加えて陸と海から用意周到に進行して来た事もあります。ただ織田兵力は必ずしも強くはありませんし、織田の得意分野は一向宗徒と同じ鉄砲であります。織田と一向宗との間には鉄砲の品質に差はあります。織田の方が良い鉄砲を使っています。しかし織田はいくさの度に兵の再編成が行われるの対し、一向宗は知っている者同士が常に行動を共にします。熟練度や用兵で強みを発揮する事が出来るのはむしろ一向宗の方であります。地の利は当然一向宗の側。籠城戦や小隊による遊撃戦を駆使すれば、あのような短期間で負けてしまう事は無かったのでは無いかと。
馬場様は飛騨に入っています。一向宗と上杉は共闘体制にあり、間の越中西部と加賀は一向宗の権益。援軍を求めれば、間違い無く謙信が自ら兵を率い動きます。一ヶ月もあれば武田上杉が越前に入る事は可能でありますし、それまで耐えるだけの力が越前の一向宗にはあったはずであります。」
馬場信春「その点についてなのだが……。」
高坂昌信「何か情報がありますか?」
馬場信春「織田が入る以前に、越前の中はバラバラになってしまっていた。正直な事を言えば、私が単体で乗り込んでも越前を奪う事は可能では無かったかので無いかと……。尤も維持する事は出来ないがな。国の大きさもあるし、我らは一向宗側にあるのだから。」
高坂昌信「一向宗が恨まれていた?」
馬場信春「『一向宗が派遣した指導者に問題があった。』
が正しいかな?一向宗の統治方法は基本自由市場であり、非課税。一向宗管轄内において各自が出した利益の一部を寄付する事によって成り立っている。石山は勿論の事。かつての三河や長島。そして越前の隣国加賀や越中西部も同様である。越前の国人から民に至る方々が織田。正しくは織田に寝返った旧朝倉の家臣では無く、一向宗を選んだ理由はそこにある。」