大酒飲みの塩分好き
少し戻って。
山県昌景「『謙信の余命が気になる。』と申すか?」
高坂昌信「えぇ。」
山県昌景「何か情報を掴んでいるのか?」
高坂昌信「いえ。それはありません。ありませんが、謙信のこれまでの生活習慣で気になる所がありまして……。」
山県昌景「それはどのような?」
高坂昌信「とにかく謙信は……。」
大酒飲み。
高坂昌信「しかも……。」
酒の肴が梅干し。
山県昌景「乾き物の分野で考えれば、梅干しは身体に良いように思うが?」
高坂昌信「確かに梅干しは二日酔いに効果的とも言われています。」
山県昌景「だろ?」
高坂昌信「ただ謙信の場合……。」
その梅干しを以てしても二日酔いになってしまう程、酒を嗜んでしまっている。
高坂昌信「上洛した際の宴席で飲み過ぎたのが原因で、翌日仕事場に来る事が出来なかったそうです。その習慣は今も変わっていないとか。加えて謙信はこれまで関東から越中。それに信濃へとあらゆるいくさに顔を出し、そのほとんどが前線で戦うため。しかもその数も尋常では無い。更に言えばその時のいくさに勝つ事は出来るが、その後の統治がうまくいっていないため同じ事の繰り返しとなってしまっている。」
山県昌景「自棄酒?」
高坂昌信「お酒に関してはそうでは無い。ただ単に好きなだけである。」
山県昌景「成果の無いいくさを繰り返すのも?」
高坂昌信「謙信を振り回して来た私にも責任の一端はあるのかも知れませんが。ただ謙信の統治方法は基本。
『地場の者に任せる。』
であります。地場の者だけで解決しているのであれば、そもそも謙信が呼ばれる事はありませんので。」
山県昌景「謙信が去ると同時に巻き返される事になるのは必定。しかし今後それも無くなるのだろう?」
高坂昌信「はい。うちと北条との和睦に伴い越中経営。更には対織田に専念する事になっています。ただ心配なのがこれまでの疲労と酒。更には梅干しとは言え塩分の摂り過ぎ。この辺りが心配されます。」
山県昌景「そうなると後継者か?」
高坂昌信「はい。謙信は2人の養子を迎え入れ、一応越後から北陸は景勝。関東は景虎とそれぞれ相続する運びとなっています。ただこれも決まったばかりの事。態勢が整っているわけではありません。加えて元々越後の出である景勝に比べ、景虎には地盤がありません。景虎は誰かの助け無しには生き残る事が出来ません。景虎は北条氏政の弟であります。」
山県昌景「近い内に上杉で後継者問題が勃発する?」
高坂昌信「はい。ただその時、私がこの世にいる保証はありません。」