本当は
戻って。
高坂昌信「『表向きは。』でありますよ。」
鳥居強右衛門「どう言う事でありますか?」
高坂昌信「本当の理由は単純に人手が欲しいからであります。」
鳥居強右衛門「しかし高坂様の所には多くの方々。それも対上杉最前線の精鋭が……。」
高坂昌信「そう。亡き御館様からお預かりした。領内各地から選りすぐられた。あらゆる事柄に対応出来る面々が駐留している。ただそのあらゆる事柄のあらゆるは……。」
いくさに関する事。
高坂昌信「その川中島でいくさになる事は、上杉謙信との和睦に伴い無くなってしまいました。彼らが収入を増やすためには、彼らが得意とするいくさが無ければなりません。その機会を与えなければなりません。幸い武田領内には、まだいくさが存在します。三河、遠江。そして美濃であります。馬場や山県には、彼らの受け入れ打診。内諾を得た後、殿に諮問する運びとなっています。
今後、川中島で必要とする人材は領内統治に長けた者であります。川中島には長年の戦乱のため、手を付ける事が出来ていない田畑となる候補地が多く存在します。加えて川中島横を流れる千曲川は越後に通じています。越後を領する上杉とは同盟関係にあります。そこから生み出される富は莫大なものとなり、織田徳川とのいくさを優位に進める上で大きな助けになる事間違いありません。問題はそれを担う人材であります。」
鳥居強右衛門「武田様には民政に長けた方々が多数いらっしゃると聞いていますが。」
高坂昌信「ただ彼らも忙しいんだよ。それに今、最優先で行わなければならないのは対織田対徳川。安全となった上杉との関わりではありません。」
鳥居強右衛門「そこで我が殿。奥平に……。」
高坂昌信「入植者に対しては、向こう3年の租税免除。並びに川中島以北の荷役運輸を奥平に委託する事により安定した収入の確保を約束している。ただ3年で自活出来る所まで持って行っていただきたいとも伝えている。」
鳥居強右衛門「何故でありますか?」
高坂昌信「馬場、山県に内藤。そして私の齢がそろそろの段階にある。次の代を育てなければならない時期に来ている。加えて奥平は外様も外様。それも親がやったとは言え、徳川に寝返った実績がある。故に貞昌は簡単に切られてしまう恐れがある。そうならないようにするためには、私の命が尽きる前に確固たる地盤を築いておかなければならない。」
鳥居強右衛門「3年で。でありますか?」
高坂昌信「その時、私は50を過ぎている。それに心配なのはそれだけでは無い。」