今後
鳥居強右衛門「まだいくさは続くのでありますか……。」
高坂昌信「申し訳ない。」
鳥居強右衛門「高坂様は何故ここに……。私を斬るためでありますか?」
高坂昌信「何故そのように思うのでありますか?」
鳥居強右衛門「最初。武田が勝利を収めた。と。」
高坂昌信「お伝えしました。」
鳥居強右衛門「私に課せられた役目も?」
高坂昌信「もはや必要ありません。」
鳥居強右衛門「その役目を反故にしようとしていた事を……。」
高坂昌信「予想した上で、実施には移しませんでした。」
鳥居強右衛門「謂わば私は用済みであり、武田を裏切ろうと考えた人物と判断された……。」
高坂昌信「そうなります。」
鳥居強右衛門「このまま解き放たれる事は……。」
高坂昌信「あり得ません。」
鳥居強右衛門「ならば私の命はここまで……。」
高坂昌信「それはありません。最初に殿の言葉を伝えたはずであります。
『自分の命を粗末にしてはならぬ。』
と。」
鳥居強右衛門「……。」
高坂昌信「改めてお尋ねします。」
鳥居強右衛門「何でありましょうか?」
高坂昌信「鳥居殿がもし長篠城の前に引き出された時、城に向かって何と言おうとしていたか?教えて下さい。」
鳥居強右衛門「……正直に申します。高坂様が考えられた事を伝える決意でありました。」
高坂昌信「『織田徳川の援軍は必ず来る!あと2日の辛抱である!!そうすれば御味方の勝利間違い無し!!』
と。」
鳥居強右衛門「……はい。」
高坂昌信「そうでありましたか……。」
鳥居強右衛門「……無念であります。」
高坂昌信「鳥居殿?」
鳥居強右衛門「覚悟は出来ています。」
高坂昌信「それを聞いて安心しました。」
鳥居強右衛門「えっ!?」
高坂昌信「軍議の席で私が鳥居殿が隠しているであろう決意を話した所、そこに居た全ての者から共感を得る事が出来ました。そして真意であった事も今、わかりました。この事はすぐ殿以下全ての将に伝達される運びとなっています。」
鳥居強右衛門「えっ!?」
高坂昌信「鳥居殿。」
鳥居強右衛門「はい。」
高坂昌信「武田家中の者全てが其方を欲しています。尤も其方の能力を求めているのではありません。其方の持つ忠義の心を欲しているのであります。この御時世。明日どうなるかわかりません。それは武田家も同じ事であります。屋台骨が揺らいだ瞬間。家中の者共は生き残るため、武田を見限り。新たな仕官先を求める事になります。
そんな時代の。それも最も大変な状況に追い込まれた其方が示した揺らぐことの無い胆力を皆が求めています。」