その戦い方は
向こう岸で独り陣を構える高坂昌信の部隊を確認した茶臼山の馬場信春は……。
馬場信春「しまった。肝心な事を教えていなかった……。」
何やら後悔している様子。その高坂昌信が陣取る場所に到着したのが……。
内藤昌豊「高坂!駄目だぞ!お前。勝手に兵を動かしては!!」
高坂昌信「いや。ここまで私は何もしてはおらぬ。それに別動隊に何かあった時の事も考えなければならぬ。」
内藤昌豊「それはわかる。わかるのだが、お前のいくさの不出来は皆が知っている。もし今、別動隊がお前を発見したら……。」
却って不安になってしまう。
内藤昌豊「他人の旗を使うべきはむしろお前の方だぞ。」
高坂昌信「……そう言われればそうでありますね。」
内藤昌豊「それに武藤から聞いたぞ。馬場に教えられた方法を実戦に投入しようとしている事を。」
高坂昌信「……おしゃべりだな。困ったものである。それを聞いて何故こちらに?」
内藤昌豊「馬場がお前に教えた戦い方。あれはな……。」
籠城に向いているのであって、野戦では使い物にはならない代物。
高坂昌信「えっ!本当!?」
内藤昌豊「決まっているだろ。鉄砲を放つ者以外の4人中3人は常に次の作業に取り掛かっている。それも全く無防備な状態で。加えてその中の誰か1人でも欠けた瞬間。機能不全に陥ってしまうであろう。」
高坂昌信「確かに。」
内藤昌豊「そのためには城であったり、信長のように土塁を構築するなどして安全を確保しなければならない。」
高坂昌信「そうだな。」
内藤昌豊「今の状況で出来るか?恐らくであるが、敵に打撃を与える事が出来るのは4人1組で1回に限定される事になってしまうぞ。」
人間地雷。
高坂昌信「……何も言えぬ。」
内藤昌豊「馬場もまさかお前が外いくさで実践しようとするとは思ってもいなかったであろう。」
茶臼山。
馬場信春「内藤の旗が見えるぞ……。あの様子を見ると急いで飛んで来たな……。たぶん俺の事言われているんだろうな……。ただ内藤が来たとなれば……。」
連吾川対岸。
高坂昌信「ではどのようにすれば良いか?」
内藤昌豊「お前が外いくさで出来る事は決まっているであろう。それは……。」
敵との距離を保ちつつ、安全な場所へと移動し続ける事。
内藤昌豊「ただそれだけに専念してくれ。」
高坂昌信「……わかった。」
内藤昌豊「間違っても踏み止まってはならぬぞ。自分の命を守る事だけを考えるように。」
高坂昌信「感謝する。で。内藤は大丈夫なのか?」
内藤昌豊「少なくとも(お前よりはマシだ)。余分な事を考えるな。行くぞ!!」