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ドンッ!
「おい!ジジイ!邪魔だっ!」
目の前でお爺さんがぶつかられて、転んだ。
「おー…ってて…何するんじゃっ!バカもんが!」
元気なお爺さんだな…
「ん?おい!おい!そこの青年よ!ワシを起き上がらせてくれんか?」
声をかけられたので、起き上がらせてあげた。
「おう!心優しい青年もおったもんだなぁ〜…今日はこの街に泊まるのかね?」
「その予定でしたが…」
「それならワシの家に泊まればよい!それならそうと行こうかのっ!」
お爺さんにそう言われて、僕は付いていった。
「うわぁ、ボロッ…ここに泊まんの?やめた方が良くないかしら?」
「このお嬢ちゃんは口が悪いのぉ〜…まぁ、本当のことだから、何も言えんがね…どうだ?青年よ?ここならお金もかけずに泊まらせてあげられるが?」
「…そうですか。でしたら、ありがたく泊めさせていただきます」
「え…私は嫌なんだけど…」
「嫌なら泊まらんでもええわいっ!そこを曲がった先に宿屋がある!そこにでも行けっ!」
「そう…。なら、そうするわ。また来るから」
「…来なくてもいいのですが?」
「何を言っているのかしら?貴方についていくと私は決めているの。誰に何を言われたって…それは変わらないわ。それじゃ」
そう言って、エルナは宿屋へと向かっていった。
「本当に口が悪いお嬢ちゃんじゃなぁ…青年よ。あんな女子のどこがよかったんじゃ?」
「勝手についてきているだけですので…」
「そうかそうか!それなら納得じゃな!青年にはもっとお似合いのお嬢ちゃんがおるはずじゃ!こんなにも心優しいのじゃからな!」
「あの…申し訳ありません。僕は心優しい訳ではありませんよ」
「どうしてじゃ?ワシを助けてくれたではないか?」
「それはお願いされたからしたまでの話です。お願いされなかったら僕は通り過ぎていたでしょう…。ですから、本当に心優しい人ならお願いされずとも助けたのではありませんか?」
「そうじゃな…。じゃが、お願いされて助けたのなら充分心優しいのではないかの?優しくないやつならお願いされたとて、助けはせぬだろう。ワシはそう思うがな?」
「…そう…でしょうか」
「青年が自分のことを心優しい人間だと思えない理由はワシにはわからん。じゃがな、ワシにはとっては充分に心優しい青年じゃと言うことだけは伝えておくぞ」
「…ありがとうございます」
「それにしても…ワシにぶつかりおったあやつめが…」
「何か急いでいるようでしたが…」
「ふん!この街は盗賊団に襲われておるんじゃよ!…じゃが、市民に被害はないからのぉ。私腹を肥やした領主でも狙われておるんじゃろ!ワシからしたら関係のない話じゃ!」
「…そうなんですね」
「そんな話はどうでもよかろう!酒は飲めるかのぉ?」
「…少しだけでしたら」
「そうかそうか!それならワシに付き合っておくれ!」
それから夜通し酒を飲んだ。
お爺さんはそれなりにお酒も強かったようだが…
気付けば酔い潰れてしまい、
テーブルに突っ伏して寝てしまったようだ。
僕は窓から見える夜空を見上げていた。
街から見える夜空は星が見えなかった。