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「あ、アニキ!そ、その…」
ヤニは悩んだ表情で話しかけてきた。
「…俺っち…俺っちは、村に残ることにしやす」
「…そうですか」
「ほ、本当は…まだ、アニキから色々と学びたいって思うんすけど…この村が大変な時に…力になれないのは…違うと思うすよ」
僕は何も答えない。
「…だから、俺っちは…アニキについていけやせん!すいやせん!」
ヤニは深々と頭を下げた。
「…ヤニ。…僕についてくることも…この村に残ることも…自分で決めたことですよね?…それなら、謝る必要などありませんよ。…僕はヤニが自分のしたいようにするのが一番だと思います」
「あ、アニキっ!」
「…マールンさん。この村で病を患っている方はどれほどいらっしゃいますか?」
「え?…ろ、六人ですが」
「…そうですか。食事のお礼になるかはわかりませんが…」
僕は赤い液体の入った小瓶を六つ取り出した。
「…これを飲ませてください。…恐らく、良くなると思いますよ」
「っ!く、薬…ですか?」
僕は何も答えない。
「そ、そんな高価な物…い、いただけません…」
「…お礼にはなりませんか?」
「いえ!そんな高価な物をいただけるような食事など…」
「…この村にとって…あの食事はどれほどの価値があったのでしょうか?…それをいただいたのです」
「そ、その…ほ、本当に…いただいても…いいのですか?」
「…はい。…これを飲ませてからも、しばらくは安静にさせてください」
「わ、わかりました…ありがとうございます」
「あ、アニキっ!あざますっ!」
ヤニとマールンは深々と頭を下げた。
「…頭を上げてください。…では、僕はこれで失礼しますね」
「アニキ!いつかまた!この村によってくだせぇ!絶対っすよ!」
僕は何も答えずに村を後にした。
「…ヤニは?…ここでバイバイ?」
「…そうですね」
「…寂しい?」
「…ユナはどうですか?…寂しいですか?」
「…んー…ちょっと」
「…そうですか」
ユナはそっぽを向きながら、そう言った。
「…ユナも…あの村に残ってもよかったのですよ?」
「…んー…寂しいけど…。ヤニより…離れたら…もっと寂しい…」
「…そうですか」
「…ユナが離れたら…寂しい?」
「…どうですかね?」
「…むー」
ユナは頬を膨らませながら、
少し早歩きをしだした。
今頃、エルナはどうしているだろうか?
ジンはどうしているだろうか?
僕はそう考えてしまった。
寂しいとは思わない。
いつも僕は一人だった。
だから、僕に寂しさなんて無い。
ただ、メルナン爺さんに頼まれたことが…
ジンを頼まれたことが、
中途半端になってしまっていること。
それが気掛かりだった。
エルナがいるから…きっと、大丈夫だろう…
「…考えごと?」
「…いえ、気にされないでください」
「…そっか」
ジンを探すことよりも、
今の僕には重要なことがある。
「…ここですか」
ふざけた研究施設を潰すことだ。