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マールンに案内され、家へと向かった。
「お父さん!ただいま!」
「おぉ…帰ったか…ゴホッゴホッ」
「お父さん!起きたらダメじゃない!ほら…寝てて…」
「すまんなぁ…」
「お、親父さん…」
「っ!や、ヤニっ!ゴホッゴホッ!」
「だ、大丈夫すかっ!?」
「わ、ワシは…大丈夫じゃ…ゴホッゴホッ!や、ヤニや…す、すまんかったのぉ…守ってやれんで…」
「お父さんね…病気に…なっちゃったの…」
「そ、そうなのかっ!?」
「流行り病みたいでね…お父さん!とりあえず、寝てて」
「じゃ、じゃが…ヤニに謝らねば…」
「俺っちは大丈夫っすよ!だから、親父さん…身体を大切にしてくだせぇ…」
「そうか…すまぬのぉ…」
マールンの父親はベッドへ横になった。
「ヤニや…本当にすまんかった…」
「親父さん…そんなに謝らねぇでくだせぇ…俺っちがクジの野郎に負けちまったのがいけねぇんすよ」
「そうではない…そもそも村長に従っていたワシらがおかしかったのじゃ…ヤニがおらんくなってから、この村は大変じゃった…そもそもちゃんと働いてくれる若い男はヤニしかおらんかった…ヤニが人一倍も働いてくれてたおかげで…この村は成り立っておったんじゃ…」
「いやいや!そんなことねぇっすよ!親父さんたちに教えられて俺っちは仕事を覚えたんすから!」
「そうかのぉ?」
「そうっすよ!」
ヤニはこれでもかと言うように、
大きな声でそう言った。
「俺っちがいなくなってから…村はどうだったんすか?」
「そうじゃのぉ…クジが好き勝手にしおってのぉ…この村も潰れてしまいそうになったんじゃが…村長共々、追い出してやったわ」
「えっ!?そうなんすか?」
「そうじゃ…それから、ワシらでもう一度…この村を立て直したんじゃが…見ての通りじゃ…もうワシは動くこともままならぬ…」
「親父さん…」
マールンの父親は辛そうに話している。
「ヤニのお仲間の方々かの?…ヤニが死なんですんだのも、お主らのおかげじゃ…本当に感謝しておる…」
「…いえ、僕たちは何もしていませんよ」
僕は静かにそう話した。
「そう言えば、他の人達は元気にしてるのか?」
「…そうね。お父さんみたいに…病気になっちゃってる人が増えてて…」
「えっ!?じゃあ、今はどうしてんだよ?」
「私とか、まだ動ける人で何とかしてるわ…」
「…そっか。それは大変だったんだな…」
「でも!私たちで何とかしなきゃね!病気になっちゃった人も早く治ってもらわなきゃ!」
「でも、この村にはさ…医者とかいねぇだろ?」
「…うん。街にお医者さまを呼びに行くことも出来ないから…」
「そう…だよな。俺っちが呼んできてやろうか?」
「でも…お医者さまを呼べるお金なんて…この村には無いわよ?」
「俺っちの金じゃ…足りないよな」
ヤニはしょんぼりとした表情をしている。
「とりあえず!私たちは大丈夫よ!…ヤニも長旅で疲れてるでしょ?…今から食事の用意をするわね…皆さんも一緒に食べられてください」
「…ユナ…お腹すいた」
「…いただいてもよろしいのですか?」
「もちろんですよ!すぐに用意しますね」
マールンは食事を用意してくれた。
この村で作ったのであろう…
野菜のスープと硬いパンをいただいた。
「…硬い」
「ごめんなさい…硬かったですよね」
「…でも、美味しい。…このスープは?」
「この村で作っている野菜ですよ」
「…んー…美味しい」
「お口に合ったようで、よかったです」
マールンは嬉しそうに笑った。
「…ありがとうございます」
「いえ…あ、あの!お二人は…そ、その…こ、恋仲なのでしょうか?」
この人は何を聞いているのだろうか?
「…違いますが」
「で、では…その…や、ヤニと…」
「ばっ、バッカでい!俺っちがユナっちと恋仲な訳ねぇだろうがっ!何を聞いてんだよ!」
「…んー…?」
ユナは首を傾げながら、
僕に質問をしてきた。
「…恋仲って、なに?」
「…さぁ、何でしょうね?僕にはわかりません。…知りたいのなら知っている人に聞いてください」
「…んー…わかった。ヤニ…恋仲って、なに?」
「そ、そりゃ!あ、アレだよ…その…なんつーか…」
「…ヤニも知らないんだ」
「し、知ってるっての!あ、アニキ!ちゃんと答えてやってくだせぇよ!」
面倒な質問に答える必要など無い。
「あっ!今、面倒だって思ったんでしょ!だんだんアニキのことわかってきやしたんだからね!」
「…はぁ…ユナさん。…恋仲と言うのはですね…ヤニとマールンさんの関係のことを言うのですよ」
僕がそう言うと、一目でわかるほどに、
二人は顔を赤くしてしまった。
「…んー…?」
ユナは二人を見て、また首を傾げた。
「…よくわかんない」