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彼はそう言って、土下座をした。
「どうかっ!お、俺っちを…俺っちを弟子にしてくださいっ!」
「…いきなり、そう言われましても…困ってしまうのですが…」
「頼むよっ!俺っちもっ!あんたぐらい…いや!あなたぐらい強くなりてぇんすよっ!」
「…お断りします」
「えっ!?な、何でだよっ!?」
「…僕は教えられるほど、強い訳ではありませんので」
「いやいやいやっ!あなたぐらい強い人なんてどこ探してもいねぇっすよっ!」
「…いるのではないですか?ただ…出会っていないだけで…」
「そんなこと言わねぇでっ!教えてくだせぇよっ!」
「…お断りします」
僕は彼の頼みを断ってから、
ユナさんと一緒に歩き出したのだが…
「…ついてきてるよ?」
「…そうですね」
「…殺す?」
「…すぐに殺そうとしないでください」
「…んー…わかった」
それから彼はずっと後ろを歩いている。
「…いつまでついて来られるのですか?…もう街から離れていますよ?」
「っ!俺っちはいつまでもついて行きますぜ!アニキに強くしてもらうまではっ!」
「…お断りしましたよね?」
「弟子は断られやしたけど!俺っちはアニキの子分になることにしたんで!俺っちはヤニって言いやす!ヤニって呼んでくだせぇ!」
「…お仲間は置いてきてもよかったのですか?」
「あー…アイツらはただの野次馬っすよ…俺っちの仲間じゃねぇっす…」
「…そうですか」
「…俺っちね。アニキにやられて…昔を思い出したんすよ…強くなるために…頑張ってたあの頃のことを…」
ヤニは頭をガシガシとかきながら語りはじめた。
「俺っちはね…小さな村の産まれでして…幼馴染と結婚する約束してたんすよ。土を耕して…自給自足の生活っす…それで満足だったんすけどね…村長の息子がね。俺っちの幼馴染のこと好きだったらしくて…決闘を挑まれたんす。そん時の俺っちはアニキよりもヒョロヒョロでしてね…あっ!アニキが弱っチョロそうなんて言ってねぇすよっ!勘違いしないでくだせぇっ!」
冷や汗を流しながら両手を前に出し、
一生懸命に違うんす!と繰り返している。
「…わかっていますよ」
「そ、そすか…それなら、よかったっす」
「…それで…話は終わりですか?」
「あ、ああ!…それでっすね。農作業しかしたことなんかなくてっすね…ボッコボコにやられちゃったんすよ。決闘なんてしたくなかったんすけどね…村長命令でして…逆らえなかったんすよ…。それで、俺っちは村を追放されちゃいまして…強くなってやるっ!って、見返してやるっ!って、身体を大きくして強くなったと思ってたんすけど…結局、何で強くなりたかったのか忘れちゃってたんすよ…俺っちってバカなんす。それで、ムカつく奴がいたら、絡んで…迷惑かけて…そんなクソみたいな毎日を送ってたんすけど…アニキにやられて…思い出したんすよ!俺っちが強くなりたかった理由!大切な人を守れるように強くなりたかったんだって!」
「…そうですか」
「だから、アニキに…俺の腐った性根もぶっ飛ばしてもらった様な気がしやしてね…弟子にして欲しかったんすけど…あっ!わかってやす!俺っちはアニキの子分なんで!教えてもらおうなんて思ってないっす!アニキの強さはアニキの生き様だと思うんすよっ!だから、勝手に学ばせてもらうことにしやした!だから、アニキが何て言おうがっ!どこまでもついて行きやすよっ!!」
ヤニは熱く語っている。
「…ユナ…お腹すいた」
「…そうですね。そろそろ食事にしましょうか」
「えーっ!俺っちの話聞いてやした!?」
「…だってヤニの話…長いんだもん。ユナ…よくわかんない」
「いや〜、まぁ、そりゃ!俺っちの今までの人生について話したんすから!長くもなりやすよ!」
「…ヤニ…うるさい」
「う、うるさいってヒドくないすか!」
「…ヤニ。僕はヤニに教えてあげられることは無いと思います。…それでも、何か学べるのであれば…ついてきたらいいのではないですか?」
「い、いいんすかっ!あ、アニキっ!!」
「…それでは食事にしましょうか」
「…うん。…ユナ…お腹すいた」
僕はユナさんに焚き火をお願いして、
食事の用意をはじめた。
「アニキ!俺っちにできることなら何でもしやすよっ!」
「…そうですか」
「何しやすかっ!?」
「…それなら」
僕がそう呟くと、
ヤニは期待の込めた眼差しをしている。
「…静かにしててください」