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どうやら彼女が目覚めたようだ。
「…起きましたか?」
「っ!」
彼女は周りを見て、驚いているようだ。
部屋中、血だらけになっており、
研究者の死骸が転がっている。
返り血で真っ赤に染まった僕を見て、
彼女は息を飲んだ。
「…申し訳ありません。貴女がどう思っているのかは知りませんが…ここは破棄させていただきました」
彼女は何も言わずに、
僕の話を聞いている。
「…ですので、貴女は晴れて自由の身になった訳ですが…そう言われても、わかりませんよね?」
「…私は…命令を聞くだけ」
「…その命令は今後一切、ありません」
「…なら、私はどうしたらいいの?私は…命令されるだけ…それだけの為に…生きていたの…」
「…それは自分で考えてください。どうしたらいいのか…どうしたいのか…自分の人生ですからね…これからは他人に決められずに…自分で決めるようにしてください」
「…わからない。わからないわ」
「…まぁ、そうでしょうね。でしたら、まずは生きることを覚えましょうか…」
「…生きる…こと?」
「…そうです。まずは、生きて生活をすることです…それから…自分の感情と向き合っていきましょうか…」
「…それは…命令なの?」
「…命令ではありません。ですが…命令されなければ生きられないのなら…最後の命令をしてあげましょうか…」
僕がそう言うと彼女は頷いた。
「…命令です。今後一切、他の命令を聞くことは禁じます。自由に生きなさい…以上です」
「…自由に…生きる?」
「…そうです」
「…私には…わからない」
「…わからないのなら、学べばいいのですよ」
僕は彼女の頭を優しく撫でた。
それから彼女と一緒に旅をしている。
「…私はNo.U007…貴方は?」
「…そういう呼び方は好きではありませんね」
「…そう…なの?…でも、私に名前なんて…ないわ…」
「…でしたら、ユナ…ユナさんとお呼びしますよ」
「…ユナ…それが私の名前?」
「…嫌ですか?」
「…ううん。ユナ…ユナ…」
彼女は自分の名前を何度も呟いている。
「…ユナさん。食事の用意が出来ましたよ」
「…これを…食べてもいいの?」
「…もちろんですよ。食べてください」
「…ありがと」
ユナさんは魔物を狩ることは難しくない…
だが、人として生きる知識が欠如している。
だから、僕はそれを補った。
「…これがお金です。食糧など必要なものを買う為にはお金が必要なんですよ」
「…お金。お金はご飯に変わる…」
「…食糧に変わる訳ではありません。食糧と交換することが出来るのですよ」
「…交換…お金と交換?」
大丈夫だろうか?
不安に思いながらも僕は教え続けた。
「おい!金を出せっ!」
旅をしていたら、襲われることもある。
「…お金を出したらいいの?」
「…彼らは交換してくれませんよ?」
「っ!なら、ダメ!」
「…そうですね」
「ごちゃごちゃ喋ってねぇで!早く出しやがれっ!殺すぞっ!」
「…殺していいの?」
「…どうぞ」
躊躇うことなく盗賊を殺した。
「…人は…殺してもいい」
「…ユナさん。それは違います」
「…違うの?」
「…ユナさんが殺したい人は殺してもかまいませんが…全ての人を殺してはいけませんよ?」
「…難しい」
「…ユナさんは僕を殺したいと思いますか?」
「…思わない。そっか…なんとなく…わかった」
ユナさんは何度も頷きながら、
うん、うんと呟いている。