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僕は崖から落ちた。
深い深い暗闇の中、落ちていくのがわかる。
腹に刺さったナイフを抜き捨てた。
「風よ…」
時折、風の力を借りて、
落ちる速度を調整している。
僕を刺した少女はもう落ちただろうか?
何度も繰り返しながら、
僕は底へと落ちた。
風の力で調整していたとはいえ…
かなりの衝撃が全身に走る。
だが、僕は生きていた。
崖の下には陽の光が入ってこないのだろう…
深い暗闇の中、僕は倒れている。
まだ、身体が動きそうにない…
エルナは…ジンは無事だろうか?
そう考えている自分に気付き、苦笑した。
僕は本当に保護者になったようですね…
エルナがそばにいるのなら、
ジンは心配いらないだろう…
僕はそう思い、起き上がった。
倒れていた時間はどれほどだろうか?
暗闇の中で過ごしていたので、
時間の感覚がない。
それから暗闇の中を歩き続けるが、
どこまでも暗闇で何も見えない。
どれだけ歩いたかわからないが…
遠くの方に微かな光が見えた。
洞窟ですか…
僕は洞窟の中へと入った。
どうやら過去、何かに使われていたのだろう。
今は魔物の巣窟と化しているが…
僕は魔物を殺し、喰う。
どうやらこの魔物は初めてだったようだ。
全身が灼けるような痛みを感じ、
脈がドクドクと強く疼きだす。
熱く、寒い…
身体中がナイフで切り裂かれるような、
突き刺されるような痛みを感じる。
この感覚を懐かしいと僕は思った。
「…ハァハァ」
汗をダラダラと流しながら、
痛みがおさまるのを、僕は待った。
もう…大丈夫だ…
あれから大した時間は経っていないのだろう…
だが、僕からすると永遠に続くように感じる。
それほど…長く感じてしまうのだ…
洞窟の中を歩き進める。
魔物を殺し続け、腹が減れば喰う。
洞窟の中を調べながら、進めていると、
ここが何の為に使われていたのかもわかった。
「…まだ…こんなことをしているんですね」
僕はそう呟いた。
ここにあった研究資料は全て破棄した。
魔物が溢れている理由もわかった。
いつか誰かが…
これを知る機会があってはいけない…
「…調べる必要がありそうですね」