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「あ、あのっ!すいません!」
突然、少女に声をかけられた。
「どうかされましたか?」
「い、今、魔物を倒すところを見ていまして…お強いんですねっ!」
「…そうですかね?」
「はいっ!そう思いますっ!…そ、それで…その…も、もしよろしければ次の街までで構いませんので…私たちと一緒に行きませんか?」
「お願いしますっ!」
少年少女が頭を下げて、お願いしてきた。
「…同じところへ向かっているのか、わからないと思うのですが?」
「わ、私達は傭兵として雇ってくれるところを探していますので…お兄さんの行く場所でかまいません!」
「そ、それと…もしよかったら…お、俺たちを強くしてもらえないですか!?」
二人は傭兵として、
生きていく覚悟をしているような表情で、
僕にそう問いかける。
「…僕は人に教えてあげられる程、強い訳ではありません」
「そ、それでも!兄ちゃんは強いよっ!頼むよ!教えてくれなくてもいいからよ!一緒に行くのはダメか?」
「お、お願いします」
何度も頭を下げられてしまった。
僕はため息をついてから、わかりましたと答えた
「やったぁ!やったな!マロン!」
「うん!うん!やったね!グラン!」
少年の名はグラン。少女の名はマロン。
親がいない子供は珍しくないが、
傭兵として生きていこうとする子供は珍しい。
「…どうして傭兵になろうと思ったのですか?」
一緒に街へと向かいながら、僕は聞いた。
「そ、それは…」
「俺たちが子供だからって雇ってくれるところがねぇんだよ!マロンを奴隷にしようとするやつがいたりしてよ…だから、強くなって俺はマロンを守るって決めてるんだっ!」
「わ、私も…自分の身は自分で守らなきゃ…それにグランっていつも無茶しちゃうから…だから、グランのこと助けてあげられたらって考えたの」
「…そうですか。お二人は仲が良いのですね」
「そ、そそそ、そんなことねぇよっ!」
グランは顔を真っ赤にして否定した。
「ち、違うの…?」
「ち、ちが…違くも…ねぇけど…」
マロンが寂しそうに尋ねると、
恥ずかしそうにそう言った。
「やっとで見つけたんだけど?」
声がした方を振り返ると女性が立っていた。
「えっ!?あ、あの…え?」
「み、見つけた?ま、マロン…この人と知り合いか?」
「う、ううん。こんな綺麗な人…はじめて見た…ぐ、グランも知らない人なんだよね?」
「し、知ってる訳ねぇだろっ!」
少年少女が女性を見て驚いている。
「ねぇ、ちょっとそこの子供たち?邪魔だからどいてくれる?」
「え?は、はい…」
子供達を通り越して、僕の前にきた。
「はぁ…ずっと探してたんだけど?」
「探す必要はなかったのではないですか?」
「私の身も心も…命だって…全て貴方に捧げているのよ?」
「いりません。そう伝えましたよね?」
「私が勝手に捧げているだけだもの。貴方の意見は聞いていないとも言ったわよね?」
会話を聞いているグランとマロンは、
どういうことだろう?と顔を見ただけで、
言いたい言葉がわかってしまう様な表情をしている。
「あ、あの…えっと、お、お姉さんは…」
「それに私を置いていく割にはこんな子供たちと一緒にいるじゃない?どういうこと?」
「たまたま一緒に行くことになっただけです。次の街までの間ですので…それに貴女には関係のない話ではないですか?」
「関係はあるわ。私の全てを捧げている人だもの」
「あ、あのっ!」
「…何かしら?」
「そ、その…お姉さんはお兄さんとお知り合いの方なんですか?」
「そうね。私のご主人様かしら…?」
「そ、そうなんですか!?」
マロンは僕を見てきた。
だが、僕は気付かないフリをした。
「え、えっと…その…あ、あの!お姉さんがよろしければ、い、一緒に行きませんか?」
「そうね…。彼が一緒に行くことになってるのならそうするしかないかしら?」
「あ、ありがとうございます!私はマロンです!」
「お、俺はグランだぜ!」
「私はエルナよ」
「え、エルナさん!よろしくお願いします!」
勝手に彼女も一緒に行動することになった。
彼女は何も言わずに僕の後ろをついてくる。
「っ!マロン!」
急に蟻のような魔物が出てきた。
数が多いな…
「…大丈夫ですか?」
「は、はいっ!な、なんとかやります!」
「俺だって!大丈夫だぜ!」
「…そうですか」
大丈夫ならいいだろう。
僕は蟻の魔物に走り近づき、
殴り殺していく。
グランとマロン、エルナは剣を手に持ち、
魔物と戦っていた。
子供達二人は危なっかしい。
二人で魔物一匹を相手取るのは、
正しい判断だとは思うが…
周りを見ることができていない。
エルナは心配するまでもなく、
次々に魔物を斬り殺していく。
たまに四肢を切り落とし、
苦しそうにしている魔物を見て、笑っていた。
「ま、マロンっ!」
マロンが後ろから魔物に襲われそうになっていた。
それをグランが庇って助けた。
「っぐ!」
「ぐ、グランっ!」
僕はその魔物も殴り殺した。
「…大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫…だと思う」
「…そうですか」
「グランっ!グランっ!」
「ま、マロン…俺は大丈夫だって…まだ魔物はいるんだ。気をつけなきゃな!」
「う、うん」
グランは立つのもやっとな様だが、
必死に剣を握りしめて立ち向かおうとしている。
それからグランとマロンは、
多少の傷を負いながらも魔物を退治することができた。
「グラン…大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だっての…薬草で傷を…ぐっ!」
傷口に薬草を当て、手当をしているようだ。
「ねぇ、この程度の魔物で…そんな感じなら…この先大丈夫なのかしら?」
「…だ、大丈夫…だと…思ってます」
「お、俺が命をかけてマロンを守るんだっ!だ、だから…っつつ!」
「…そう。なら、好きにしたらいいんじゃない?」
エルナはそう言って、興味を無くしたようだ。
「…お二人がこの様子なら、今日はこの辺りで休んだ方がよろしいですね」
「ねぇ、こんな子供たちなんか置いていってもいいんじゃないかしら?」
「あ、あの…もし急いでるんなら…俺たちのことは気にしないで先に行ってください」
「ぐ、グランっ!」
「だって、そうだろ?兄ちゃんが急いでるんなら…俺たちがお荷物なのは…明らかじゃねぇか」
「そ、そう…だけど…」
「…一緒に行くことにしましたので、次の街までは一緒に行動しますよ」
「っ!あ、ありがとうございます!」
「…本当に…いいんですか?」
「はい」
「はぁ…なら、仕方ないわね…グランだったかしら?こっちに来なさい。そんな薬草じゃその傷は治らないわ…」
エルナは薬草を煎じた薬をグランに飲ませていた。
少し安静にしたら良くなるだろう。
今日はここで休むことにした。