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「やはり視点を変えてみないといけないからね」
サンカクさん…じゃなくて、トライさんが
そう話している。
「んー…っと、サンカクさん…じゃなくて、トライさんは帝国の偉い人だったの?」
「黙ってて悪かったね」
「いや、大丈夫なんだけどさ。じゃあ、魔物に襲われてたのは…」
「あぁ、あれは本当に死にそうだったよ。冷や汗が止まらなかったね」
「でもさ!お偉いさんならちゃんと護衛がついてたんだろ?」
「いや、本当に行商のふりをしていたからね。帝国中を見て回って、駄目なところがないか…確認するのは身分を隠した方がわかりやすいこともあるからね。だから、護衛も傭兵に頼んだんだけど…質の悪い護衛でね。本当は魔物に殺されたんじゃなくて、魔物を見て、私を置いて逃げてしまったんだよ」
「えっ!?傭兵が魔物から逃げたっての?」
「そうなんだ。私もビックリしてしまってね…命からがら逃げたところにジンくんたちがいたんだよ」
「…もう行商のふりをしなくてもいいのかしら?」
「そうだね。衛兵があそこまで腐っているのなら…この街の領主もそれまでだってことだろう。それにそろそろ帝都に戻ろうと思っていたからね」
「…そう」
姉ちゃんは静かに答えた。
「今日はここに泊まってくれてかまわないからね。私は領主の仕事を見てくるよ」
「わかった!」
「うん。それじゃあ、また後でね」
トライさんはそう言って歩き去った。
「姉ちゃん、どうする?」
「…そうね。とりあえず、街を見ようかしら」
「そうだな!」
街を歩いていると、人とぶつかり、
荷物を落としてしまった男性がいた。
「あー、すいやせん、すいやせん」
「大丈夫ですか?」
「あー、だいじょぶっす、だいじょぶっす」
「手伝いますよ!」
「あー、坊ちゃん。あざます」
俺は荷物を拾うのを手伝った。
「よし!これで大丈夫っすね」
「あー、なんかすいやせんねぇ〜…なんか、手伝ってもらっちゃって…」
「いいんすよ!困ってる時はお互い様っすから!」
「そうすか。あざます。坊ちゃんは旅人ですかい?」
「へ?そう…だけど…」
「そうなんすね!俺も旅をしてるんすけど…なかなか一人旅ってもの辛いもんがありましてねぇ〜…もしよかったら、ご一緒してもよろしいですか?」
「え?いや、それは…」
姉ちゃんがいいって言わないと…
「…貴方の名前は何て言うのかしら?」
「俺の名前はサニーっす。気軽にサニーって呼んでくだせぇ」
「…そう。一人で旅をしているようだけど、目的は何かしら?」
「そうっすねぇ。自分探しの旅っすかねぇ」
「…私たちの後をつけていたようだけど?」
「へっ!?そうなの?」
「何言ってんすか!んなわけないじゃないっすか〜…アレじゃないすか?たまたま行く先が一緒だった…みたいな?」
姉ちゃんが周りを気にしてたのって…
「サニーは俺たちの後をつけてたの?」
「坊ちゃん…そんなわけないでしょ?俺はフツーに一人旅を…辛い思いをしながらしてたんすよ?そんな俺を疑うんすか?それに俺が何のために坊ちゃんたちの後をつけるんすか?」
「…その目的を聞きたいのだけど?」
「姐さん…そんなヒドイっすよ!俺はただの旅人っすよ?もしかしたら、姐さんたちの近くを旅してたかもしれないっすけど…それを後をつけてるなんて…そんなこたぁ〜ないっすよ」
「…本当かしら?」
「本当っすね」
姉ちゃんとサニーは静かに見つめ合った。
「…そう。ならいいわ」
「おっ!それじゃ、ご一緒してもよろしいんすね!」
「…別に好きにしたらいいんじゃないかしら?」
「あざます!坊ちゃん!よろしくお願いしますね!」
「うん!俺の名前はジン!よろしくな!サニー!」
「よろしくっす!姐さんもよろしくおねしゃす」
姉ちゃんは何も答えなかった。
「いやー、一人旅ってホントに辛いんすよぉ…」
「そうだよね。俺も一人で旅なんて…絶対出来ないって思うもん」
「坊ちゃんは、まだまだこれからなんすから。それに一人で旅する必要なんてないじゃないっすか」
「うん…。そうだけどさ…。それより、サニーって一人で旅をしてたんなら、戦えるんだよね?」
「あー、ボチボチっすかね?基本的に魔物からは逃げて生活してたもんで」
頭を掻きながら、照れ笑いしている。
いや、魔物から逃げながら一人旅!?
「えっ!?それ大丈夫だったの!!」
「いやぁ〜…まぁ、なんとかなってたんで、今んとこ、生きてるんすかねぇ」
「いやいや!危ないでしょ!?」
「そっすねぇ。だから、坊ちゃんたちとご一緒できてよかったっすよ!」
サニーは爽やかな笑顔でそう言った。