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「助けてくれぇぇえ!」
魔物から逃げている男性が
俺たちの方へと走ってきた。
「うわっ!マジかよっ!?」
「…ジンっ!」
「わ、わかってる!」
姉ちゃんはすぐに戦闘態勢になった。
俺もすかさず剣を抜き、身構える。
森の中から突然、現れたから、
魔物を避ける事は難しそうだった。
魔物は6体いた。
姉ちゃんがどんどん斬り殺していく。
俺も魔物に斬りかかった。
「よい…っしょー!」
いきなりだったから驚いてしまったが、
この数なら…姉ちゃんと一緒なら大丈夫だ。
「…大丈夫かしら?」
「うん。大丈夫だよ」
「…そう」
姉ちゃんはそう言うと、走ってきた男性に
冷たい視線を向けながら話しかけた。
「…それで、どういうつもりかしら?」
「いやぁ…そのぉ…」
「私たちだから大丈夫だったけれど…私たちを殺したかったのかしら?」
「め、めっそうもないっ!」
「…殺すつもりだったのなら容赦しないわよ?」
「ち、違いますぅぅう!」
「姉ちゃん!」
姉ちゃんは剣を向けながら話している。
「…アンタね…わかってる?私たちはただただ、迷惑をかけられただけなのよ?」
「わ、わかってるけどさ…なんか…事情があったのかもしれないじゃん?」
「…はぁ。なら、いいわ…アンタに任せる」
「わかった。それで…魔物から逃げてたけどさ…護衛とかいなかったん?」
「それは…そのぉ…」
「戦えないならさ、護衛いないと魔物に襲われたら殺されちゃうじゃん?何で逃げてたの?」
「す、すいません…」
「いやいや!責めてるってわけじゃなくてさ!…事情を聞きたかっただけなんだけど…」
「…じ、実は」
サンカクさんは行商をしていたみたいだけど、
魔物に護衛も殺されてしまって、
命からがら逃げてきたらしい。
「ほ、本当にすまないっ!…助けてもらったのにもかかわらず…お礼をすることも出来ない…お金も…荷物と一緒に置いてきてしまった」
本当に申し訳なさそうに話している。
「そうだったんすね!…なら助かってよかったじゃないすか!」
「えっ!?」
「え?違うんすか?」
「い、いや…私は何も返すことが出来ないのだが…」
「ん?それが何なんすか?」
「え?いや…」
「…はぁ。命が助かってよかったって本気で言ってるだけなのよ…お礼もお返しも考えてなんかないの…バカだから」
「ちょっ!姉ちゃん!バカって何だよ!」
んだよ!俺はバカじゃねぇーし!
「そ、そうなのかい…?」
「そうっすね…俺はバカじゃないっすけど…本当に助かってよかったって思ってますよ!そうだ!それなら次の街まで一緒に行きます?」
「い、いいのかい?」
「もちろんっすよ!」
それからサンカクさんと一緒に旅をした。
「ジンくん。君は本当に優しいんだね」
「いやいや!そんなことないっすよ!」
「帝国にこんなにも心優しい少年がいるってことを知れて嬉しいよ」
「ははは〜…そんな褒めても何もでないっすよ?」
「本当にそう思っただけだよ」
サンカクさんはやたらと褒めてくる。
なんか…照れるな…
「エルナさんには申し訳ないと思っているよ」
「…別に助けたたくて助けたわけじゃないわ」
「それでも今、こうやって助けてくれているじゃないか。…本当にありがとう」
姉ちゃんは何も答えなかった。