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「そろそろ休憩しようか」
タントさんは笑顔でそう言った。
「よっしゃ!ご飯や!」
「はははっ!そうだね!ご飯にしようか」
「…?姉ちゃん?どうしたの?」
「…何でもないわ」
姉ちゃんは何かが気になっているようだが…
周りを見渡しても変わりはないように思える。
「ねぇ、今回の荷物は何か聞いてもいいかしら?」
「え?あぁ、もちろん。かまわないよ。前回と同じで食糧品がメインかな?その土地その土地での物を仕入れて売り渡っているからね」
「…そう」
「エルナさんも行商に興味があるのかな?もしエルナさんが興味あるのな」
「ないわ」
タントさんが話している途中で、
姉ちゃんはすかさず答えた。
「姉ちゃん、どうかしたの?」
「…何でもないわ」
「そっか…」
タントさんと食事の準備をした。
それから魔物に襲われることもあったけど、
何とか街まで辿り着くことができた。
「やはりジンくんとエルナさんに護衛をお願いしてよかった!…もしよければこの先も護衛をお願いできないだろうか?」
「え?いいの?」
「もちろんだよ。こちらからお願いしたいぐらいさ」
「いいよな?姉ちゃん!」
「申し訳ないけど…護衛はここまでにするわ」
「えっ!?何でだよっ!」
「いつまでも一緒に行動する必要がないからよ」
「私はエルナさんが行きたいところへ一緒に向かうつもりだが?」
「それでもよ…この先、街から街だけ移動しても見つからないかも知れないわ…それなら他の行動をしないといけないかもしれない…そう言えば、わかるわよね?」
姉ちゃんがそう言うと、
タントさんは何も言えなかった。
「…ほ、本当にその人を探す必要はあるんですか?」
「…どういう意味かしら?」
「その彼とどう別れてしまったのか…私は知らないが…本当に探して欲しいと思ってるのかな?街から数日離れるだけでも危険なのに…それをしてまで探さなきゃいけない人なんですか?それを良しとする人なんですか?それならそんな人」
「タントさん!」
俺が大きな声を出すと、
タントさんはビックリした顔をしている。
「タントさんが俺たちのこと心配してくれてんのはありがたいんすけど…俺たちにとっては大事な兄ちゃんなんすよ。きっと、俺たちが危険な目に合ったら怒られちゃうかもしれないっすけど…それでも、俺たちは…俺は、兄ちゃんに会いたいんすよ」
「…そうか」
タントさんはしばらく黙っていたが、
すぐにすまなかったと謝ってくれた。
「それじゃ…いつかまた…会える日を楽しみにしているよ」
タントさんはそう言って立ち去っていった。
「姉ちゃん…何かあったんだろ?」
「…アンタは気にしなくてもいいわ」
「やっぱり、何かあったんじゃん…」
姉ちゃんは何も教えてはくれないけど、
きっと、何かあったんだろう。
街で一晩、宿で過ごしてから、
また旅に出た。
姉ちゃんは周りを気にしているようだ。
「なぁ、姉ちゃん」
「…何かしら?」
「何があんだよ?」
俺も周りに意識を向けるが、
何も変わった様子はない。
「…気にするほどではないわ」
やっぱり、姉ちゃんは
何も教えてはくれなかった。