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「よし!終わりっと!」
魔物を倒した俺は馬車へと戻る。
「ジンくん、ありがとうね」
笑顔で話しかけてくれたこの人は、
行商をしているタントさん。
「いやいや!こんなの朝飯前っすよ!」
「調子に乗らない」
姉ちゃんにすぐ小言を言われてしまった。
「えー、だってさ〜」
「あんな魔物…簡単に倒せて当たり前よ」
「それでも、私には倒すことは出来ないからね」
「行商のあなたが倒せるのなら、護衛なんていらないわ。護衛として、当たり前のことを言ってるだけかしら」
「そうかい?それでも私からすると、この歳で倒せることはすごいと思うけどな」
「それで調子に乗って、死なれたら困るの。それにアンタが目指してる強さってのはその程度なのかしら?」
「…俺は…兄ちゃんぐらい…強くなりたいかな?」
「…そう。なら、わかってるわね?どのぐらい無謀なことを目指しているのか…死ぬ気で頑張りなさい」
「おう!」
姉ちゃんはそれから何も言わなかった。
「兄ちゃんって誰のことなんだい?…あぁ、聞いちゃいけないことだったかな…それなら詳しくは聞かないけど…」
「あー!別に大丈夫っすよ!…俺の兄ちゃん…ってか、ホントの兄ちゃんじゃないんすけどね!…その…俺と姉ちゃんは…兄ちゃんを…探してるんすよ」
「…そのお兄さんを…二人で探してるのかい?」
「そうなんだ!…まぁ、どこにいるのかなんて、わかんないんだけどな!」
「そうか…見つかるといいね」
「おう!」
俺と姉ちゃんは二人で旅を続けている。
そして、今はタントさんの
護衛をしているところだ。
「やっとで着いたね」
「そうっすね!」
「ここまで無事に来れたのは、ジンくんとエルナさんのおかげだよ」
「へへっ!よかったっすよ」
「私はここで荷物をおろしてから、次の街に行くんだが…もしよかったらまた護衛をお願い出来ないかな?」
「次はどこへ行くのかしら?」
「そうだな…エルナさんはどこへ行きたいんだい?」
「そうね…ジンから聞いたとは思うけど、私たちには探している人がいるの。…どこにいるのかなんてわからないのだけど…とりあえずは、北を目指そうかと思っているわ」
「北か…それなら次の街までは少し遠くなってしまうかもしれないね」
「そうなのね」
「…私も…北に向かってもいいかもしれないな。どうかな?また護衛をお願いできるかい?」
「え?タントさんも一緒に行くんすか?」
「私が一緒じゃダメかな?」
「いや!そういう訳じゃないっすけど…」
「…よかったのかしら?」
「こちらこそいいかな?」
姉ちゃんとタントさんは
静かに見つめ合っている。
「…北に向かうのなら、護衛を引き受けてもかまわないわ」
「そうか、よかったよ。それじゃ、私は荷物を下ろしてくるから…あそこの宿を取ろうか。私が部屋を取っておくから、二人は休んでおくれ」
「いいんすか!?」
「はははっ!護衛をお願いしてるんだ…宿代ぐらいは私に面倒を見させてくれ」
「あざっす!」
「じゃあ、私は行くよ。また後で」
そう言って、タントさんは
宿屋の部屋を取ってくれた後に
街の中を進んでいった
「姉ちゃん、この後はどうする?」
「…そうね。アンタの剣…そろそろガタがきてるんじゃないかしら?」
「え?そうかな?」
俺は腰に下げた剣を抜いた。
「んー、ちゃんと手入れはしてんだけどなぁ…」
「ちゃんも手入れをしていても…武器は消耗品よ。いつまでも使えるわけじゃないわ」
「ふーん。そういうもんか…」
姉ちゃんの後についていき、
武器屋へと向かった。
「おー、なんかスゲーな!」
「…少しは静かにしなさい」
武器屋の中には沢山の武器が並んでいた。
「アンタも身長が伸びてきたわね…」
「え?そうかな?」
「そうね。今持ってるのより…少し大きい方がいいかも知れないわ」
「へー…そうなんだ」
姉ちゃんに勧められた剣を手に取る。
うん。ほどほどの重さだな
ブンッブンッ
「坊主…なかなかいい太刀筋してるじゃねぇか」
「え?そうかな?」
「あぁ、坊主のわりにゃ基礎がしっかりしてんじゃねぇか」
「この剣はあなたが作ったのかしら?」
「そうだ。ここにあるのは全て俺の自信作だ」
姉ちゃんも剣を一つ、手に取り振った。
シュンッ
「なかなか…いい剣じゃないかしら?」
武器屋のおっちゃんは、
姉ちゃんには何も言わなかった。
俺にはよくわからなかったけど、
姉ちゃんに勧められた剣を買うことにした。