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パチッパチパチッ…パチ…
焚き火が赤く燃えている。
「…はぁ…彼がいないと大変ね」
今日、何度目のため息だろうか?
姉ちゃんはポツリと呟いた。
「俺だって出来るって…」
「…アンタに命を預けたくないわ」
「でもさ…姉ちゃんも寝なきゃ…」
「…そうね」
今まで考えたこともなかったけど…
旅をしていたら、
夜中に魔物に襲われることもある。
それなのに、俺はいつも熟睡して寝ていたんだ。
それが出来ていたのも…
兄ちゃんがいてくれてたから…
「…とりあえず、アンタが先に寝なさい」
「うん。わかった…けど!ちゃんと起こせよな!姉ちゃんも…ちゃんと寝なきゃ…身体…壊しちゃうよ…」
「わかってるわ…仕方ないから、アンタを起こすわね。私は少し仮眠が取れたらいいから」
「…うん」
俺は横になった。
兄ちゃんはちゃんと寝ていたんだろうか?
考えても、思い出しても、
寝ている兄ちゃんを見たことがない。
「起きなさい」
姉ちゃんに起こされた。
気付けば、俺は寝ていたみたいだ。
「ん…おはよ」
「まだ朝じゃないわよ」
「わかってるけどさ…」
「…少し仮眠を取ってもいいかしら?」
「おう!大丈夫だぜ!」
「…そう。なら、任せるわね」
「わかった!」
姉ちゃんはそう言うと、横になった。
俺は食べる物が無くなったら、
兄ちゃんから貰って…
夜中も兄ちゃんに守られてて…
強くなりたいって思っていたけど、
どれだけ甘えていたのかってことに…
離れて、初めて気付いた。
兄ちゃん…生きてるよな?
俺は兄ちゃんのことを考えて、
泣きそうになった。
「…なに、泣いてるのよ」
「っ!な、泣いてねぇよ!」
姉ちゃんが起きたようだ。
「…私はもう大丈夫よ。アンタはもう少し寝るかしら?」
「俺は…大丈夫」
「…朝までもう少し時間があるわ。寝れる時に寝ときなさい」
「…姉ちゃんがちゃんと寝ろよ」
「…私は大丈夫って言ってるでしょ?アンタはまだ子供なんだから…甘えてもいいのよ」
「…なぁ、兄ちゃんがさ…いつもこうやってさ…俺たちのこと守ってくれてたんだよな…」
「…そうね。私も彼に任せっきりだったわね」
「…兄ちゃん…生きてるよな?」
「生きてるわ」
「そう…だよな…」
「…ほら、早く寝なさい」
「…うん。ありがとう」
朝になるまでの少し時間、俺は横になった。
それから、街に着くまでは大変だった。
旅をすることが、こんなに大変だったなんて…
俺は知らなかった。
「久しぶりにゆっくり寝れるわね」
「うん。そうだね」
「アンタもちゃんとは寝れなかったでしょ?」
「俺より姉ちゃんの方が寝てねぇじゃん!」
「私は大丈夫よ。それよりもアンタは…彼がいる時のようには…寝てないでしょ?」
俺は何も言えなかった。
「何度も言うようだけど…寝れる時にちゃんと寝ときなさい。わかったわね?」
「うん…わかってるよ」
「それなら、いいわ」
宿に泊まり、その日はぐっすりと眠った。