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パチッパチパチッ…パチッ
廃村になってしまったあの村から、
旅を続けて一週間が経った。
「姉ちゃん…どうやったら強くなれるのかな?」
「…さぁ、アンタには無理なんじゃないかしら?」
「俺には…無理なのかな…?」
「…そうね。無理だと思うなら無理よ」
「…どっちなんだよ」
「…強くなんてそうそうなれるものでもないでしょ?すぐに強くなるなんて無理よ。でも、諦めなければ…いつかは強くなるんじゃないかしら?」
「…諦めなければ?」
「そう…諦めなければね」
「うん…わかった。俺は…諦めない…」
ジンはそう決意をしたようだ。
ビューーーー…ゴーーーー…
崖底へと風が吸い込まれていく。
「すげぇ…」
「…ジン。落ちたら死にますよ」
「わ、わかってるよ…でもさ!こんな深い崖なんて…見たことなかったからさ…」
ジンは落ちないようにしながら、
崖を覗き込んでいる。
だが、崖はどこまでも続いているように深く、
底は見えそうもない。
「た、たすけてっ!」
突然、少女が走ってくると、
それを追いかけるように男達が集まってきた。
「ねぇ!たすけてっ!」
「え?ど、どうしたんだよ!」
「おい!テメーら!そいつを渡せ!そしたら殺さねぇぞ」
リーダーのような男が話しかけてきた。
「…どうして追いかけているのですか?」
「テメーらには関係ねぇーだろうがっ!」
「…そうですね」
だが、少女はジンに助けを求めている。
「ど、どうしたん?」
「…お、お父さんが殺されて…わ、私…奴隷にされちゃう!」
どうやら盗賊に襲われていたようだ。
「兄ちゃん!助けよう!」
ジンはそう言うと盗賊と戦いはじめた。
「はぁ…どうするの?」
「…どうしましょうか?」
「オメーら!奴らを皆殺しにしろっ!」
「…そう言ってるけど?」
「…そうですね」
襲ってきた盗賊を返り討ちにする。
半分ほど倒すと、逃げていった。
「よっしゃ!へへっ!もう大丈夫だぜ?」
ジンは少女に話しかける。
「…あ、ありがとう。ありがとう…」
「おう!気にすんなよな!」
「私ね…お父さんが殺されたの…それでね…奴隷にされちゃうの…」
「ん?もう大丈夫だろ?」
「うん。だ、大丈夫だよね?」
「おう!大丈夫だぜ!」
「うん…うん。大丈夫…大丈夫だよね?」
少女の様子が…何かおかしい…
「私の…お父さんはね…殺されたんだ…」
「さっきの奴らに殺されたんだろ?だから、もう大丈夫だぜ!」
「…だから、お父さんを殺した奴を殺さないと…奴隷にされちゃうの…」
「え?どういうこと?」
「だから!死んでっ!」
少女はナイフを取り出して、
ジンを刺そうとした。
僕はジンを突き飛ばし、代わりに刺される。
刺された勢いのまま…
僕は少女と一緒に崖から落ちた。