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僕がエルナとジンのもとへと行くと、
ヤンを抱えて泣いているジンと、
子供たちの世話をしていた女性を襲っている、
カムカムがいた。
「…どういう状況ですか?」
「…そうね。見ての通りよ…」
「…そうですか」
僕はジンに近づいた。
「に、兄ちゃん!や、ヤンが!ヤンが!あの薬飲んだら治るんじゃないかな!治るよな?」
「…もう亡くなっていますよ。人を生き返らせる力はありません」
「わ、わかんねぇじゃん!だから!だからさ!」
僕はため息を吐いて、
小さな小瓶に入った赤い液体を渡した。
ヤンの口から飲ませようとしているが…
死んだ人を生き返らせる方法などない。
「ぐ、グルルルルルっ!」
カムカムが僕たちに近づいてくる。
「か、カムカムっ!」
だが、襲うことはなかった。
必死に理性を保とうとしているようだ。
僕がカムカムに近づくと、
やめてくれよっ!と声が聞こえた。
「兄ちゃん…やめてくれよ…」
「…ジン。もう無理です。もとには戻れません…ゆっくり寝かせてあげましょう…」
「でも!でもっ!」
「…早かれ遅かれ…こうなっていたと思いますよ」
「何でそんなこと言えんだよっ!」
「…人の言語を理解する魔物などいません。異常に身体が小さかったですよね?…それは」
「やめてよっ!俺は…俺はカムカムを…た、助けたいんだよっ!ヤンに!ヤンに頼まれたから!」
「…ヤンのところへ帰してあげませんか?」
僕がそう言うと、
泣きながら何も言わなくなった。
「…さぁ…ゆっくりおやすみ…」
「ぐ、ググッ…」
僕の右手がカムカムの身体を貫いた、
「…クゥーン」
カムカムはそう小さく鳴くと、
ヤンの身体に身を寄せ合うようにしながら、
息を引き取った
「ヤン…カムカム…ご、ごめんな…お、俺…俺…何も…で、出来なかった」
ジンは泣きながら、
静かに眠るヤンとカムカムを抱きしめた。
ジンが泣き止むまではと思い、
僕は黙って眺めていたのだが…
「なぁ、兄ちゃん?…俺がさ…俺が…もっと強かったらさ…ヤンも…カムカムもさ…守れたのかな?」
「…どうですかね?…ヤンは守れたかもしれません。ですが…カムカムは難しかったのではないですか」
「何で…カムカムは難しいの?」
「…カムカムは普通の魔物ではありませんでした。異常に小さい身体…人の言語を理解する知能…明らかに普通の魔物ではありません」
「…でも、友達だったんだ」
「…そうですね。ですが、いつか…先ほどの様になってしまっていた可能性は…高かったと思います」
「…可能性だろ?…それに…ヤンは守れたかもしれないんだよな?」
「…そうですね」
「だったら…強くならなきゃ…もっと…もっと…友達を守ることができるぐらいには…強く…ならなきゃ…」
ジンは自分に言い聞かせるように、
ヤンとカムカムに語りかける様に呟いた。
「俺さ…もっと強くなるよ…」