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街を歩いていると少年とぶつかった。


「あっ、すいませんっ!」


少年は走っていて、前を見ていなかったようだ。


「かまいませんよ」

「す、すいませんっ!」


また走り去ろうとしたので、

僕は少年の腕を掴んだ。


「かまいませんが…それは返してもらいましょうか?」


少年の懐には僕の銀貨の入った袋があった。


「ちっ!こいつ気付いてたのかよっ!ドニー!」


少年はそう言うと、

もう一人の少年に声をかけ、

僕の小袋を投げた。


少年の腕を掴んだまま、

宙に浮いた小袋を掴む。


「っな!!」


僕が小袋を取り返したことに、

驚いているようだった。


「ま、まずいっ!ドニー!お前だけでも逃げろっ!」


少年がそう言うと、

もう一人の少年は走り出そうとした。


僕は掴んでいた少年を放り投げ、

走り出そうとした少年にぶつける。


「ってて…」

「逃がしませんよ?」


僕がそう言うと、

二人の少年は青褪めた顔をした。


彼らの名前はゾニーとドニー。

どうやら兄弟のようだ。

親はおらず、こうやって人から、

お金を盗むことで生活をしていたようだ。


「…だいたいの理由はわかりました。ですが、殺されても仕方のないことをしている自覚はありますか?」

「じゃあ、どうやって生きろってんだよっ!俺たちはこうすることでしか生きていけねぇんだよっ!」

「行商の下働きや街の住民の仕事を手伝うことで雇ってもらうという考えもあるとは思いますが…」

「やったさっ!でも…二人は引き取れねぇって…兄弟二人で生きていくためにはこれしかねぇんだよっ!」

「そうですか。それなら強くなって傭兵にでもなればいいのではないですか?命をかけて…魔物と戦う道もあるとは思いますが…」

「………」

「魔物と戦う覚悟はないんですね」

「お、俺たちはまだ子供なんだっ!魔物と戦うことなんかできるわけねぇだろっ!」

「そうですか。そう…なのかもしれませんね」

「それで!俺たちを殺すのかっ!?殺すなら殺しやがれっ!この人殺しっ!!」

「僕は人殺しですよ」

「えっ!?」「っひ!?」


そう言うと二人はすごい顔をしてしまった。


「ですが、貴方達を殺すつもりはありません。街の衛兵にでも引き渡しましょうかね…」

「そ、それだけはっ!…それだけは…やめて…くれませんか?」

「何故ですか?」

「そ、それは…」

「このまま逃す訳にもいきませんからね…貴方達の為にも、そうした方がいいと思いましたが?」


二人の少年は今にも泣きそうだ。


「お、俺たち…そこから逃げてきたんだ。街の人達も領主のこと嫌っててさ…だから、一人だけなら匿ってくれるって言ってくれたんだけどよ。ここの領主は私利私欲の為に金を使っててよ…衛兵に渡されたら奴隷扱いで…身体中を…その…」


よく見ると身体中は傷だらけだ。

それも最近のではなく…古い傷跡で…

この歳でこれだけの傷をつけられるとは…


「それで…ドニーは…俺の弟は話せなくなっちまった…領主に逆らっただけでも反逆罪で…奴隷扱いされちまうんだよ…この街は…」

「そうなんですね」

「だからよ!その…衛兵に引き渡すのだけは…その…や、やめて…くれませんか?」

「その話は信じるに値する話ですか?」

「ど、どういう…こと…だよ?」

「逃がしてもらいたいが為の、嘘…ではありませんよね?」

「ち、ちげぇよっ!嘘なんかついてねぇっ!!」


彼の弟は首をブンブンと振るように頷いている。


「そうですか。でしたら、確認に行きましょうか」

「か、確認?」

「そうです。確認ですよ」


僕はそう言って二人をつれて

領主に会いに向かった。


「おっ!何だい?兄ちゃんっ!このガキ捕まえてくれたのかよ?ったく、手間取らせやがって!」


衛兵が僕たちを見るなり、

そう言って少年を蹴ろうとした。

だから、少年の服を掴み後へと下げた。


「まだ引き渡すかは決めていません」

「あ?何言ってんだ?そいつらは俺らの奴隷だったんだよ!奪おうってのか?あぁ!?…まぁ、そんなことしねーよなぁ〜?ほら、金やるよ!それ拾って、とっとと帰りなっ!」


チャリンッ


銅貨が2枚転がった。


「…足りませんね」

「あ?」

「人の命にしては…少なすぎませんか?」

「こんなガキ共っ!こんだけありゃ十分すぎる金だろっ!それとも何だ?逆らうってのか?それならテメェも奴隷にしてやろうか?」

「…できますか?」

「当たり前だろうが!俺たちは領主のダチなんだぜ?この街は俺たちのおもちゃ箱だからよ!」

「…そうですか」

「んで!どうすんだよ?あ?テメェも奴隷になりたいってか?あ!?」


僕は少年二人を振り返り、声をかけた。


「どうやら腐っているのは本当だったようですね」

「テメェ!腐ってるって言いやがったかっ!?クソがっ!テメェは反逆罪だ!奴隷にして可愛いがってやんよっ!」


衛兵が剣を抜き、切り掛かってきた。


「…殺すつもりなら、殺されても仕方ありませんよね?」

「は?」


僕は顔面を殴り潰した。


ゾロゾロと衛兵が集まってくる。


「どうやら僕は反逆者のようです。殺すのなら今ですよ?」

「ふざけんなぁぁぁあああ!」


次から次へと切り掛かり、襲ってくる。

僕は一人、また一人と殴り殺す。


返り血で真っ赤に染まったころ、

領主が現れた。


「き、ききき、貴様っ!何故、このようなことをするっ!?」

「…僕を殺そうとしたのですから…殺されても仕方ありませんよね?」

「…な、なっ!」

「貴方も僕を殺したいと思いますか?」

「そ、そんな…ことはしないっ!だから、だから、俺だけは…た、助けてくれっ!!」

「そうですか…」


そう呟いた途端に街の人達が、

鍬などの農具を手に取って集まってきた。


「な、何だっ!お前らっ!俺に逆らったらどうなるかわかっているのかっ!」

「…娘を…娘を…俺は一生、お前のことを許さない!」

「家族を食いもんにしやがってっ!殺してやるっ !」


そう口々に叫びながら、領主を殺しはじめた。


振り返り、少年二人を見ると、

殺人鬼を見た人はきっとこんな顔をしてるんだろうなと、

思えるような表情でガクガクブルブルと震えながらも、

僕を見て、怖がっているようだった。


「もう僕から逃げてもかまいませんよ」


二人は何も言わず、ただ頷き続けている。


「…それでは」


僕はそう呟いてから街を後にする。

返り血で前を見るのが難しかった。

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