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カムカムは途中まで一緒に来ていたが、
どこかに身を隠したようだ。
「…どちら様ですかね?」
村の人が一瞬、睨んだように見えたが、
ニコニコと笑いながら問いかけてきた。
「…たまたま村の外でヤンに会いましてね。案内していただいたのですが…」
「そうでしたか。何もない村ですが…ゆっくりと過ごされてください」
「…ありがとうございます」
「ヤン?あまり遅くに帰ってきてはいけませんよ?」
「村長さん…ごめんなさい」
「いいんですよ。では、旅人の方々…私は失礼しますね」
村長はそう挨拶して立ち去った。
「こっち…私のお家」
「おう!」
ヤンに連れられて歩くと、
小さな子供が多くいる建物に案内された。
「ヤン!また出かけてたのかいっ!」
「…ごめんなさい」
「まったく…この子は…それで、そちらの方々は誰なんだい?」
「…僕たちは旅をしていまして」
「ヤンに連れてきてもらったんすよ!」
「あー、そうだったのかい…ここは親のいない子供たちの面倒を見ててね…だから、食糧は分けられないよ。それで、大丈夫かい?」
「…はい。大丈夫です」
「そうかい…なら、適当に使ってもらってかまわないよ」
「…ありがとうございます」
もう日が沈むというのに、
子供達は庭で楽しそうに遊んでいる。
だが、ヤンは一人で過ごしているようだ…
「ヤンはね…なかなか心を開かない子でね…周りの子達からもちょっとだけ浮いてるんだよ」
僕がヤンを見ていると、
女性がそう話しかけてきた。
「…そうなんですね」
「まぁ、アタシからすると手のかからない子ではあるんだけどね…一人で行動してばっかりだから、心配はしてるのさ」
ジンがヤンに話しかけた。
「なぁなぁ!ヤンは腹減らねぇの?」
「…ご飯の時間はもう少し後」
「えー!マジかよ…俺はもう腹減ったんだけど…」
「ジンは先に食べてもいいんじゃない?どうせ自分で用意して食べるんでしょ?」
「そうなんだけどさぁ〜…せっかくなら、ヤンと一緒に食べたいじゃん!」
「…どうして?」
「え?だって、もう友達だろ?」
「…私…ジンのお友達なの?」
「えっ!?そう思ってんの俺だけかよ!」
二人の会話を聞いて、
女性は少しだけ嬉しそうに話した。
「…でも、アンタのお仲間のおかげで…今日は少しだけ…楽しそうにしてるよ」
「…そうですか」
「さて、そろそろ食事の準備でもしようかね…ほら!アンタ達!遊んだ物は片付けるんだよっ!」
「はーい!」
子供達は女性の声で片付けをはじめた。
ほどなくして食事が用意された。
硬そうなパンに具なしのスープだけ…
成長期の子供たちが食べる量としては、
明らかに少な過ぎる量だ。
だが、それでも嬉しそうに食べている。
「…ジンのご飯…美味しそう」
「え?ヤンもちょっと食べる?」
「…いいの?」
「おう!一緒に食べようぜ!」
ジンがヤンに食事を分けると、
他の子供達も欲しそうに眺めていた。
「いいな〜…ヤンだけ、ズルい」
「ズルい…」
「え?え!?…ちょ、ちょっとだけだぞ!」
結局、ジンは子供達、全員に分け与えた。
「兄ちゃん…俺のご飯が…」
「自分のせいでしょ?」
「ね、姉ちゃん…そうなんだけどさ…」
「私はあげないわよ?」
「…うん。わかってるよ…」
ジンは殆どの食糧を分け与えてしまったようだ。
「悪いね…まさか、食事を分けてもらえるとは思わなかったよ」
「…ジンが勝手にしたことですので」
「そうかい?でも、これから旅を続けるなら食糧が無いと大変なんじゃないかい?」
「…自分でしたことです。これも経験の一つですよ」
「意外と厳しいんだねぇ」
「彼は甘いわよ?結局、どうしようもなくなったら分け与えるんだから」
「そうなのかい?」
「…死なれたら困りますからね」
「…世の中、餓死する子供は多いからね」
「…貴女も子供たちの面倒を見られていますよね?」
「そりゃ、それがアタシの仕事だからね」
彼女は苦笑しながらもそう言った。
「ほら!アンタ達!食べたら寝る準備をするんだよっ!遅かったやつは外に放り出すからねっ!」
「はーい!」
いつもより多く食べられて満足したのだろう、
子供達はそれぞれが寝る準備をはじめる。
「俺も寝なきゃな!」
「そうね。さっさと寝なさい」
「おう!おやすみ!」
ジンも寝る準備をはじめた。
「ほら!ちゃんと寝るんだよっ!」
「はーい!」
「はい、じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい!」
子供達もスヤスヤと眠りについた。
「アンタ達は寝ないのかい?」
「…僕はもう少し、起きていますよ」
「そうかい?アタシはもう寝るからね」
「…ゆっくり休まれてください」
女性は寝室があるのかもしれない…
広間から出ていった。
「私は先に寝るわね」
「…そうしてください」
「…おやすみ」
「…おやすみなさい」
エルナも横になった。
僕は寝ている子供達を静かに眺めていた