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「ありがとう。君たちのおかげで無事に着くことが出来たよ」
マイルさんは笑顔でそう言った。
「…いえ、こちらこそありがとうございます」
結局、ジンは食べるだけ食べて…
街に着くころには、
マイルさんが用意していた食糧を、
食べ切ってしまったのだ。
「ま、マイルさん…本当にごめんっ!」
「は、ははは…うん。いや、いいんだよ」
マイルさんは苦笑しながらも、
そう言ってくれた。
僕は食糧を分けると伝えたのだが、
マイルさんは受け取ってくれなかった。
「次に会うことが出来たら…もう少し多めに用意しておくよ」
「…本来なら護衛の食事を用意する必要などないのですが」
「いや!君の為なら!私は用意すると決めたんだっ!」
何だか、もう意地になっているような…
「それと、私が出来ることなら…君の力になるからね。それは覚えていて欲しい」
「…ありがとうございます」
「うん。それじゃ、本当にありがとう。また会える日を楽しみにしているよ」
マイルさんはそう言って立ち去った。
「ここが帝国なの?」
「帝国って言っても端っこよ。王国と対して変わらないんじゃないかしら?」
「うん…なんか、よくわかんね」
「…まぁ、そういうものかもしれませんね」
街を見て回ったが、
ジンの感想はよくわからないだった。
それからは変わらず、旅を続ける。
パチッパチパチッ…パチッ
「…エルナ。お願いがあります」
ジンが寝静まった後に話しかけた。
「何かしら?」
「…もしも…僕に何かありましたら…ジンをお願い出来ますか?」
「嫌よ」
「…そうですか」
「貴方に何かあるなんて、考えたくもないわ。そんな話しないでくれるかしら?」
「…ですが…この先、何があるかわかりませんからね」
「…はぁ、貴方はもう忘れたかもしれないけれど…私の全ては貴方に捧げているのよ?貴方に何かあるぐらいなら…私は…」
「…僕は死にませんよ」
「そんなことわかっているわ」
「…もしも、僕に何かあって…ジンと離れてしまった場合には…僕が戻るまででかまいません。ジンを頼みますね」
「…戻ってくるまでよ?」
「…はい。それでかまいません」
「…わかったわ」
ため息を吐くように答えてくれた。
「へへっ!俺は騙されないっつーのっ!」
助けた人が盗賊だったようだ。
だが、ジンは騙されなかった。
「っぐは!」
「っち!退くぞ!」
ジンを騙した盗賊を気絶させると、
盗賊の仲間は散り散りに逃げていった。
「よし!起きたら、いい奴になってろよ?」
「なるわけないでしょ?バカなの?」
「なってるかもしれねぇじゃん!」
このやり取りも何度目だろうか?
ジンは騙されそうになっても、
盗賊の命はとらない。
「アンタね…殺しなさいっていつも言ってるでしょ?聞いてないのかしら?」
「でも、兄ちゃんは俺が決めていいって言ってくれてるから!俺は殺さないねっ!」
「そう…なら、もういいわ」
気絶させたまま、そこに放置していく。
「兄ちゃん、帝国ってさぁ…王国よりも盗賊の数が多くね?」
「…そうかもしれませんね」
王国と同じく、人の善意につけこむような、
盗賊もいれば、直接襲ってくる者もいる。
確かに帝国の方が盗賊の数は多いかもしれない。
ただ、僕たちが、
多く遭遇しているだけなのかもしれないが…
「兄ちゃんっ!女の子が襲われてるっ!」
ジンは指差しながらそう言った。
その方向を見ると狼の魔物に襲われている、
少女を見つけた。
「助けなきゃっ!」
ジンはすぐさま剣を抜き、走る。
魔物を斬ろうとした瞬間…
「やめてぇぇええええ!」
少女の叫ぶような悲鳴が聞こえた。